苛めたい位君が好き
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「名無しさんさーん!」
「何でしょうか、朋香ちゃん」
「タオルとドリンクってあとは立海大に持って行けばいいだけですか?」
「はい、そうですよ」
「ありがとうございます!あ、くれぐれも無理しないで下さいね!?」
「ふふ、分かっていますよ」
名無しさんのその返事を聞き、朋香は満足そうな笑みを浮かべその場から離れていった。
本当は自分も手伝いたい所だが、不注意から足首を捻挫してしまったので出来る事が限られてしまっているのだ。
これでは臨時マネージャーになった意味がないし、何の為にここに居るのか分からない。
本来ならばサポートしなければいけない立場なのに、逆に部員達や桜乃や朋香にサポートされているようではここに居る意味などないのではないだろうか。
名無しさんがそんな事を思いながら溜め息を吐き出していると、練習を終えた氷帝部員達がこちらに歩いてきている姿が見えたので、名無しさんは慌ててベンチから立ち上がった。
「お疲れ様です、皆さん。今タオルを…」
「ええて名無しさん。自分らで取るからお前は座っとき」
「でも…」
「クソクソ!大人しくしとけって言ってるだろ!?怪我が酷くなったらどうすんだよっ」
「す…すみません」
「気にすんなよ名無しさん。こいつらはただお前の事が心配なだけなんだからな」
「はい。お役に立てず本当にすみません」
「なんだその顔は。どうせまた良くねえ事でも考えてんだろ」
「景吾君…あ、あのっ」
「あーん?」
「私に何か出来る事ありませんか?何でもしますからどうぞ遠慮無くどんな事でも言って下さい!」
「何でもだと?」
「はい!何でもです」
「どんな事でもしてくれんのか」
「勿論です!」
何でもと言われてしまってはこれはもうあれしかないだろう。
自分専属の召し使いにするしかない。
それならばまずはメイド服の準備をしなければならないし、きっとそれは名無しさんに良く似合うだろう。
そんな姿で“ご主人様”とか“景吾様”とか言われたらこれはもう鼻血ものだ。
そして、何か粗相をしてしまったら仕置きと称して色々と躾をしてやるのもいい。
跡部が口元を緩ませている姿を、部員達は酷く冷たい視線で見据えていた。
「俺、こんな部長嫌です宍戸さん」
「仕方ねえだろ。こんなんでもテニスの実力だけは確かなんだからよ」
「良くない事考えてるのは名無しさんじゃなくて跡部の方だC!」
「ウス」
「名無しさん」
「何でしょうか若君」
「お前がわざと怪我した訳じゃないって事は皆分かってる。だからそんなに無理して何かをしようとしなくていいんじゃないか」
「日吉の言う通りやで、名無しさん。どうしてもっちゅうならせめて歩かん仕事したらどうや?例えばスコアノート取るとか一杯あるやん」
「あっ、後は俺の相手も立派な仕事だからよろしくね!」
「ふふ、俺の相手も忘れないでね名無しさん」
「皆さん…」
何て優しい人達なのだろうか。
氷帝テニス部の臨時マネージャーとしてこの部に入って本当に良かった。
けれど合宿が終わったら自分はマネージャーを辞めなければならない。
それが跡部と榊との約束だから仕方のない事だと分かっていても、こうして皆と笑い合えるのはあと数日しかないと思うと何だか寂しい気がする。
このまま何の役にも立たないままマネージャーを終わらせて本当にいいのだろうか。
名無しさんはそんな事を考えながらふざけ合う部員達を眺めていた。
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