苛めたい位君が好き

□favorite8
1ページ/15ページ

跡部は窓から射し込む光で目を覚ました。
時計を確認すると、起きるにはまだ早い時間で、まだ寝ていてもいいだろうと再び瞼を閉じようと体を横に向けた。
しかし、すぐ隣には可愛らしい寝息を立てる名無しさんの姿があり、思わず顔を熱くさせてしまった。
そうだ。
昨日自分は名無しさんの部屋に泊まったのだ。
そして、あんな事をしてしまってこんな事もさせてしまったと何だか恥ずかしいような気もする。

「んっ…」

「起きたのか?」

「…」

「ふん…何だ。寝言かよ」

何の夢を見ているのか、名無しさんは口元に笑みを浮かべながら気持ち良さそうに眠っている。
跡部もまた、口元を緩ませながら名無しさんの寝顔を見据えていた。
あの分厚い眼鏡を外すと、本当にこの少女は整った顔立ちだと思う。
例えるのならフランス人形のようだ。
これで、鈍臭くなく頭の回転もいいのなら完璧なのにどうやら神は名無しさんに二物も三物も与えてはくれなかったようだ。
まあ、自分がその二物も三物も持っているのでそれで丁度良い位なのだろうが。
跡部は喉を鳴らし、名無しさんの唇に自分の唇を寄せた。

「け…いご君…?」

「ああ、起こしちまったか。悪い」

「大丈夫です…ふわ。あ、すみません」

「別に気にしてねえよ」

「今何時でしょうか」

「5時半過ぎだ」

「そうですか…景吾君は早起きなんですね」

「習慣だからな」

「あ、あの」

「なんだ」

「折角早起きしたので、良かったら少し私とテニスしませんか?ラケットは確か倉庫にあった筈なので」

「お前テニス出来たのか」

「いえ、昨日精市君に少し教えて頂いただけですが…やっぱり私では練習にはならないですよね」

「そんな事はねえ。練習がてら特別に俺様がお前にテニス教えてやるよ」

「本当ですか!?それなら準備をしてくるので少し待っていて下さい」

そう言って慌ただしくベッドから降り、洗面所に向かう名無しさんを跡部は目を細めながら見据えていた。
きっとそれは名無しさんから自分への心遣いのつもりだろう。
そんな名無しさんの気持ちが嬉しくて、まだお前とベッドの上で甘い時間を過ごしていたいのだと言えなくなってしまった。
とことん自分は名無しさんに甘いと思いながら跡部は、自身も体を起こし1度部屋に戻るとメモ書きを残し名無しさんの部屋をあとにしていった。

「よし。それじゃあウォーミングアップ入る前にストレッチと行こうじゃねえか」

「ストレッチ…ですか」

「あーん?何だその顔は。走る前にストレッチは基本中の基本だろうが」

「そうですけど…あの背中合わせで相手を持ち上げるのありますよね?それを私が出来るかどうか…」

「ククッ…ばあか。そこまでお前に求めてねえよ。そんななよっちい腕で俺様を持ち上げるなんざ100万年経っても無理だろうからな」

「で…出来るかもしれないじゃないですか」

「出たな負けず嫌い。ならやってみせろよ」

跡部はそれは面白そうに喉を鳴らしたあと、背中を向け、早くしろと言わんばかりに名無しさんを見据えた。
名無しさんも名無しさんで言ってしまったからには引けなくなったのか、跡部の背中に自分の背中を合わせ腕に自分の腕を絡ませた。
当然の事ながら自分の事を持ち上げられず、必死に唸りながら何とか持ち上げようとする名無しさんに更に跡部は笑ってしまった。
この女は全く、負けず嫌いにも程があるだろう。
どう考えたって、男である自分と女である自分の体格差だってあるのだから持ち上がる訳がないに決まっている。
跡部は、やれやれといった風に息を吐き出したあと、名無しさんを背中で持ち上げた。




.
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ