苛めたい位君が好き

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「明日からいよいよ合同合宿だ。いつもより気合いを入れて練習しろ。いいな」

「分かりました」

「そんなの当然だろ。練習付き合えよ長太郎」

「勿論です!」

「よしゃ。岳人、みっちり練習しようや」

「おう!」

「芥川さん。今日位ちゃんと起きて練習して下さいよ」

「え〜、だって眠いC〜…」

「樺地。ジローを連れてけ」

「ウス」

「あ…あの…景吾君」

「なんだ」

「その…折り入ってお話があるのですが…」

「あーん?どんなお話があってそんな顔しちまってんだよ名無しさん。ほら、言ってみろ」

明日から合宿という事もあり、いつもより部員達は気合いが入っており、それは跡部自身も例外ではなかった。
だが、練習をしようとコートに足を踏み入れようとしたその瞬間名無しさんに可愛らしい顔をされながら呼び止められてしまったので、跡部はその場に止まり頬を赤く染めながら口端を上げた。

「ええと…私、まだ傷目立ちますか?」

「なんだよ藪から棒に。薄くはなったがまだ所々目立ってるぜ」

「やっぱりそうですよね…」

「ダサいとはいえお前も女だから顔に傷が残ったらと思えば心穏やかでいられねえのは分かる。だが、安心しろ。万が一の時は…いや、どうせお前は俺様の妻になるんだから嫁入りの事は心配しなくていいぜ」

「えっ!あの…私は別にそういうつもりでは…」

「おいなんだよ。俺様に何か不服でもあんのか」

「ないですけど…」

「なら文句言ってねえでお前は黙ってはいと言ってりゃいいんだよ」

「ご…誤解です!そういうお話ではなく、まだお家に帰るのはまずいでしょうかとお聞きしたかったんです」

「あーん?俺様と居んのが嫌にでもなったのかよ。まさかお前の願いってのは家に帰して下さいとかそんなんじゃねえだろうな」

「いいえ。そういう訳ではないです」

「じゃあ何でだよ」

「大きな声で言うのは流石に恥ずかしいので少しお耳をお借りしてもよろしいでしょうか」

「チッ…仕方ねえな」

名無しさんは跡部の耳元に顔を近付け小さな声で話し出した。
その話を聞いていた跡部は、途中から顔を熱くさせ思わず目を見開いてしまった。
もしかしたら自分は名無しさんにとんでもない事を言わせてしまったのかもしれない。
男の自分ではそんな事気付いてやれないのは当然だし、確かに家に帰してくれとも言いたくなる筈だ。
しかしながら、まだ傷が目立っているのは事実で家に帰らせる訳にも行かないし、どうしたものか。
いや、名無しさんを家に連れ帰ったのは自分だし自分が責任を取るべきだ。
跡部はまだ熱い顔を名無しさんに見られないようにそっぽを向きながら口を開いた。

「し…下着位俺様が買ってやる」

「えっ、い…いいですよそんな…」

「いいんだよ。ついでに服やその他の物も俺様が買ってやるから今日部活が終わったら出掛けるぞ」

「明日から合宿ですよ?私に無駄な時間を使わないで下さい。それに、買いに行くのならお金だって多少はあるので私1人でも行けますし」

「お前1人でなんか行かせられる訳ねえだろばぁか。それにお前に割く時間や使う金なら1つも無駄だなんて思わねえんだから黙って甘えておけ」

「お気持ちはありがたいのですが、でも…あの、一緒にお店に入るのは恥ずかしくないんですか?」

「ふん…店なら貸し切りにするよう電話しておけばいいだけだ。それなら多少なりは恥ずかしくねえよ」

「景吾君…あの、ありがとうございます」

「だから気にすんなって言ってんだろうが。それより」

「はい」

「今までどうしてたんだよ。替えの下着がなくてよ」

「そっ…それは…その…夜にそれだけは自分で手洗いして何とかしのいでました」

「…それはつまりあれか。寝る時下着は着けていなかったとそういう事か」

「は…はい」

「…」

「…」

「チッ…練習に行ってくる。お前もとっとと明日使う物の準備に取り掛かれ。トロいんだから今からやってねえと部活終わるまでに終わんなくなるぞ」

「あ、あの…はい」

急に体を反転させ、そう不機嫌そうに言い放つ跡部に名無しさんは首を傾げてしまったが、特に気にする事もなくその場を立ち去っていった。
名無しさんが立ち去ったのを確認してから跡部は髪をかき上げ、またしても顔を熱くさせてしまいながら溜め息を吐き出した。
ちょっと待って欲しい。
自分は何度も名無しさんがパジャマの時に部屋を訪れている。
まさか、その時も下着を着けていなかったというのか。
それに今日もし自分が駄目だと言ったら、明日からの合宿でも同じようにパジャマの下に下着を着けず過ごすつもりだったのだろうか。
無防備過ぎるのも本当に大概にして欲しい。
跡部はもう一度盛大な溜め息を吐き出しながら今度こそコートに入っていった。




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