苛めたい位君が好き

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「遅くなってしまってすみません」

「ああ、本当だな。これ以上遅くなったらどう苛めてやろうかと丁度考えていた所だ」

「けけ…景吾君!?え…ど…どうしてここに居るんですか」

「あーん?お前の事迎えに来てやったからに決まってんだろ」

「で…でもどうやってここに…?」

「お前まだ気付かねえのかよ。運転手を見ろ」

「運転手さんを?…あ」

「そういう事だ。さっさと乗れ」

名無しさんはそれに頷き跡部の隣に腰を下ろした。
まさか今日1日自分を乗せてくれていた運転手を帰らせて、学校から屋敷には帰らずわざわざここまで代わりの運転手に頼み跡部が迎えに来てくれるとは思わなかった。
運転手さんには申し訳ない事をしたと思う反面、逢いたいと願っていた跡部にすぐにでも逢えて素直にとても嬉しいと思う。
名無しさんは熱くなってしまった頬を冷やすように、ひんやりとした自分の手を頬にあてた。

「何してんだ」

「な…何もしていませんよ」

「ククッ…お前な。だからばればれの嘘吐いてんじゃねえって言ってんだろが」

「…すみません」

「素直で結構じゃねえの。つうかお前を待っている間に幸村と手塚から資料を受け取ったと連絡があったぜ」

「そうなんですか?」

「ああ」

「ふふ、漸くマネージャーらしい事が出来て良かったです」

「まあ確かにお前にしちゃ上出来だな」

「跡部君や皆さんからライバル校だとお聞きしていて、どんなに怖い方達なんだろうと思っていましたが皆さんとても親切でお優しい方々ばかりで安心しました」

「お優しいだと?それは一体誰の事だ」

「皆さんがですよ。特に幸村さんと手塚さんは今日色々とお世話になりまして本当に助かりました」

嬉しそうにそう微笑む名無しさんの頭を撫でてやっていた跡部は、動かしていた手を止め眉間に皺を寄せた。
あの堅物で女子には一切興味無いという素振りを見せるあの手塚が優しい?
そして、女子は煩くて好きではないだの所詮雌豚だのと散々にいつも言っている幸村が優しいだと?
こいつは誰かの事を幸村と手塚だと勘違いしてるんじゃないだろうか。
いや、そういえば先程電話で話した時に幸村は何故だか面白いマネージャーだと言って珍しく楽しそうな声色だったし、手塚もとても良いマネージャーだなと言っていた。
一体こいつとあいつらの間で何があったというのだろうか。
跡部は名無しさんの顎を掴み上げたあと気に入らないというような表情を浮かべてみせた。

「随分楽しそうじゃねえの名無しさん。色々とお世話して貰ったとお前は言うが、どんな色々な事して貰ったんだよなあ」

「え?どんなってあの…普通にテニスコートまで一緒に行って頂いたり、私の勘違いをすんなり許して貰ったりですが…」

「勘違いってなんだよ」

「それはその…実は私手塚さんの事最初顧問の先生と間違ってしまって…」

「手塚を顧問に間違えただと…?」

「は、はい。それで私の変わりにそれを笑っていた菊丸さんがグラウンドを100周走らされてしまって本当に申し訳ない事を言ってしまったししてしまったなと」

「…ククッ…名無しさんお前っ…まじで馬鹿な奴。まあ確かにあれじゃ勘違いしても仕方ないが菊丸はいいとばっちりだな」

「わ…笑い事じゃないんですってば」

「手塚の事は分かった。で、幸村の方はどうなんだ」

「幸村さんは、テニスコートが何処にあるのかとお尋ねしたらたまたまテニス部の部長だし着いておいでと言って下さいまして」

「成る程な。それで色々世話になったという訳か」

「はい。それから私が転びそうになったのを助けて下さって、弾みで落ちてしまった眼鏡を拾って頂いたんです」

「眼鏡を落とした?おい、それじゃあお前あいつに眼鏡外した顔見られたっつうのかよ」

「え?ええ…ほんの一瞬ですが。あと手塚さんと不二さんにも同じく一瞬ですが見られてしまいました。不二さんといえば今日は不二さんにも色々と助けて頂いてしまって…」

そう言って申し訳ないという表情を浮かべる名無しさんを跡部は鋭い視線で見据えた。
成る程。
どうりで幸村や手塚があれだけ名無しさんを褒める筈だ。
普段も可愛いが、眼鏡を外した名無しさんはより一層可愛いし色々な事に納得した。
それに、手塚はさておき幸村や不二が実は腹の中真っ黒なドSな性格だという事を自分は良く知っている。
恐らくその二人の中で、何かをきっかけに名無しさんを苛めてやりたいという嗜虐心を煽るような事があったに違いない。
鳳に不二には気を付けろと言われていた癖にそれを忘れているのだろうか。どうしてこいつは厄介な奴らばかりに好かれるのか。
合同合宿もそうだがこれから先、おちおち気を抜いていられなくなった。
黙り込んでしまった自分を不思議そうに見据える名無しさんを跡部は不機嫌そうな表情を浮かべながら見据えていた。







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END


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