苛めたい位君が好き
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「すみません、跡部君」
「どうした」
「あの、少しだけよろしいでしょうか」
「ああ」
部室でオーダー表を作っていた跡部の元に名無しさんが困ったような表情を浮かべながら訪ねてきたので、跡部は動かしていた手を止めた。
また何かドジをしてしまったのか。
それとも鈍臭いと日吉に怒鳴られてしまったのだろうか。
何にしてもこうして自分を頼ってくるだなんて可愛いではないか。
跡部は口元を綻ばせながら名無しさんにソファに座るよう促した。
「で、今度は何なんだよ」
「あの…跡部君にお願いがあって来ました」
「お願いだと?言ってみろ」
「はい。お願いというのは…あ…跡部君の…」
「おい。口ごもってねえではっきりと喋れ」
「わっ…分かってはいるのですが何だが言いにくくて…あのですね、色々な練習がしたくてその…跡部君の身体を私に貸して頂けないでしょうか」
名無しさんのその言葉を聞いた瞬間跡部は目を見張ったまま固まってしまった。
一体何を言っているのだこの女は。
身体を貸して欲しいだなんて、それはつまる所名無しさんは自分とそういう事をしたいとそう言っているのだろうか。
いや、例えそうだとしてもこの跡部景吾を使って練習をしたいだなんてそれは一体どういう了見なのだろうか。
それに今の所まだ想いは通じ合ってはいないが、自分という男がいながら何処の雄猫を喜ばせる為に練習がしたいだなんてそんなふざけた事を言っているのか。
跡部は頬を赤く染めたまま、恥ずかしそうに顔を俯けている名無しさんに鋭い視線を向けた。
「おい」
「は、はい」
「俺様には知る権利があるからあえて聞くが、それは誰の為の練習だ」
「え?それは勿論部員の皆さんの為にですが…」
「ぜっ…全員とだと…?名無しさん…お前何考えてんだ」
「あ…あの…」
「俺様はな、お前にんな事させる為にマネージャーにと推した訳じゃねえんだぞ。大体お前には俺様という完璧な男がいんのによくその俺様に向かってそんな事が言えたな」
「ちょっ…ちょっと待って下さい跡部君」
「ハッ…ダサくて大人しい奴だと思っていたがまさかそのお前がとんだ好き者だったとは流石の俺様も見抜けなかったぜ」
「なっ…何か勘違いされているようですが、私が言っているのは手当ての練習をさせて欲しいという意味なのですが」
「手当てだと?」
「はい」
「手当てっつうのはそういう意味の手当てじゃなく普通の意味の手当てって事か」
「その通りです。それより、そういう意味での手当てとはどういった意味なのでしょうか」
「…何でもねえ。つうか俺様が言った事は今ここで全て忘れろ。いいな」
「は、はい」
自分がとてつもなく恥ずかしい勘違いをしていたというその事実に跡部は、先程とは別の意味で顔を熱くさせてしまっていた。
大体だ。
大体、この女が紛らわしい言い方をするからいけないのだ。
それに手当ての練習位なら自分でなくともいい筈だ。
しかし部室に入ってきた時の名無しさんのあの顔を見る限り、部員達には断られてしまったのだろう。
あんな言い方をされれば、誰だって勘違いをしてしまうし、部員達が断った理由も良く分かる。
鈍い鈍いとは思っていたが、そんな所まで鈍くなくてもいいだろうと思いながら跡部は呆れたような溜め息を吐き出した。
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