苛めたい位君が好き

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「おい名無しさん」

「はい、何でしょうか跡部君」

「お前どうせ暇なんだろ?だったらこれから…」

「すみません。私これから図書委員の集まりなのですぐに行かなければならないんです。それからこのプリントも職員室へ持って行かなければならないですし」

ほらと言いながら名無しさんは先程生徒達から集めたプリントを跡部の前に差し出し、それを見た跡部は眉間に皺を寄せてしまった。
あの日から数日が経ち、こうして同じクラスになって分かった事がある。
この少女はお人好し過ぎるのだ。
名無しさんと会うずっと前から忍足から人が好過ぎて心配なんだとは聞いていたが、これは普通のお人好しではなくドがつくド級お人好しだ。
名無しさんがダサくて大人しくてノーと言えない性格なのをいい事に、クラスメイト達は面倒臭い事を次々に押し付け、名無しさんはそれらを全て引き受けてしまったのだ。
まあ、押し付けられている時に名無しさんが困ったような表情を浮かべていたのを知っていて、それを助けずそのやり取りを楽しんで見ていた自分も同罪といえば同罪なのだが。

「チッ…どうやら楽しんでる場合じゃなかったみてえだな」

「え?」

「何でもねえよ。貸せ」

「あ、あの跡部君」

「なんだよ。この俺様が手伝ってやろうってのに何か不満でもあんのかよ」

「不満なんてそんな…けれど、跡部君は部活がありますよね。早く行かなければ遅れてしまいますよ」

「あーん?馬鹿にすんな。俺様はお前と違ってトロくも鈍くもダサくもねえしこんな事位で時間をロスするような男じゃねえよ」

「…ダサいは関係ないですよね」

「ククッ…なんだよ泣きそうな面して。もっと俺様に苛めて欲しいのか?」

「何でそうなるんですか」

それは楽しそうに目を細め、喉を鳴らす跡部を名無しさんは恨めしそうに見据えた。
この跡部と友達になったのはいい。
友達の少ない自分と友達になってくれたのは素直に嬉しいし喜ばしい事なのだが、何が楽しいのか毎日のように自分をからかってはこうして意地悪そうな笑みを浮かべてくる。
確かに自分の事は自分が一番良く知っているが、こうも毎日気にしている事をずけずけと言われてしまっては流石に傷付いてしまうというものだ。

「ククッ…なんだよその顔は。本当にお前は俺様を飽きさせねえ女だな」

「お願いですから飽きて下さい」

「この俺様が最上級の褒め言葉をくれてやったのに何だその不満そうな顔は」

「も、もう!髪の毛が乱れるのでそうやって頭をぐしゃぐしゃにするの止めて下さい」

「もっと乱して欲しいなんて随分と欲張りじゃねえの」

「言ってないです、そんな事」

名無しさんの頭を更にくしゃくしゃに撫で回し、満足そうな笑みを浮かべたあと跡部は鞄とプリントを持ち、教室をあとにしていった。
あえて名無しさんに行くぞと声を掛けないのは、そんな事を言わずとも名無しさんが自分の後をまるで従順な犬のように追い掛けてくるのが分かりきっているからだ。
後ろからパタパタと足音を立てながら慌てて自分を追い掛けてくる名無しさんに、やはり思った通りだったと思いながら跡部は可笑しそうに喉を鳴らし口元を緩ませていた。





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