苛めたい位君が好き

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「ここが、新しい教室…」

名無しさんは、3年A組のドアの前でピタリと立ち止まると大きく深呼吸を繰り返した。
別にクラスが変わるのは初めての事ではない。
ないけれど、元来の人見知りもあってかやはり新しいクラスになるのはとても緊張するし、こうして教室に入るのは自分にとってはかなりの勇気がいる事だ。
しかし、いつまでもここに居る訳にもいかないので、意を決した名無しさんがドアに手を伸ばそうとしたその瞬間肩を叩かれたので名無しさんはビクリと肩を揺らした。

「ひいっ!」

「ひいって何やねん。人を化け物扱いするなんて酷いやん」

「ゆゆ…侑士君!?」

「教室入ろ思たらえっらい固まっとる奴が見えたからこうして来てやったっちゅうのにひい!はないやろひい!は」

「ご、ごめんなさい侑士君。私、本当に緊張してて」

「ククッ…相変わらずからかいがいがある奴やな。冗談や冗談。やからそない顔すんなや」

そう言って笑いながら名無しさんの頭を撫でる忍足侑士は1、2年生の時まで名無しさんと同じクラスで、とある事が一緒だという事もあり意気投合し仲良くなった、唯一普通に話せる友人の1人である。
忍足は、周りからはポーカーフェイスだとかクールだとか言われているようだが、とてもそうとは思えない。
自分には普通に笑ってくれるし、今だって緊張を解そうとこうして冗談だって言ってくれるし、何より自分を気に掛けてくれるとても優しい人だと思うのにそう言われるのが不思議でならない。

「なんやねん、そない見つめて。さては俺に惚れて…」

「あ、それはないです。ふふ、もう侑士君ったらいつも冗談ばっかりなんですから」

「即答すなや。結構傷付いたで俺」

「あーん?そこに居んの忍足か?」

「跡部やん。お前このクラスなんか?」

「ああ。つうかそこのチビ猫は何だ」

「チビ猫てお前…まあええわ。名無しさん、隠れとらんで出てこいや」

「あ」

忍足の後ろに隠れていた名無しさんは、眉間に皺を寄らせ目の前で腕を組ながら自分を見下ろす少年を恐る恐る見上げた。
この人物を自分は知っている。
この氷帝学園の生徒会長であり、あのテニス部部長の跡部景吾だ。
いつも忍足から話は聞いていたし、全校集会の時も壇上で話す彼を遠目には見ていたが、近くで見るとますますオーラが凄まじ過ぎて何も言えなくなってしまう。
名無しさんがそのブルーアイから目が離せなくなっていると、跡部は何かを思い出したかのようににっと口端を上げ忍足に視線を向けた。

「このチビ猫、お前がいつも話してる雌猫だろ」

「せや。ちゅうかチビ猫やのうて名無しさんや名無しさん」

「ハッ…そんなんどうだっていい。つうか話には聞いていたがここまでだせぇとはな」

「だっ、ダサい…ですか?侑士君、そう思っていたのならはっきりそう言って下されば良かったのに…」

「ちょ、待て待て!俺は一言もダサいなんて言うとらん。おい跡部、お前誤解されるような言い方すんな」

「だせぇもんにだせぇと言って何が悪い。お前の話聞いてるだけで大体どんな女か想像出来たがまさかこれ程とはな」

跡部は自分にダメ出しをされ、恐らく落ち込んでいるであろう名無しさんを見据えた。
黒淵眼鏡はまあまだいい。
しかし、今時お下げとはどういった事なのか。
制服だって校則に従ってきっちりと着こなしているのもいいが、それが更にダサさに拍車を掛けている。
忍足があまりにも今時珍しい位良い子で可愛いと褒めるものだから、どの程度かと思っていたがそう大した事もなさそうだ。








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