お姫様と殺し屋

□episode1
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少女はリュックに荷物を詰め込んでいた。
この少女の名前は、名無しの名無しさん。
意志の強そうなレッドアイにすっと筋が通った鼻、そしてぷっくりと膨らんだ形の良い唇に少しだけウェーブのかかったさらさらの髪。
恐らくこの少女を見たら誰もが容姿端麗だと褒め称えるだろう。
その名無しさんが何をしているのかというと、今からこの大きくも窮屈な屋敷から逃げ出そうと荷造りをしているのだ。

「もう我慢出来ない!朝から晩まで護衛が付いてるし自由に遊ぶ事も外に出る事も出来ないなんてこんなの死んでるのと同じだよっ」

名無しさんは荷物を詰め込んだリュックをしょい、あらかじめ作ってあった手綱代わりのシーツの綱を窓から投げ落としゆっくりと下りていった。
下を見てしまうと目眩を起こしてしまいそうなので、なるべく見ないようにはしているがやはり少しだけ怖い気もする。
漸く地面へ足を着ける事が出来た名無しさんは、護衛が居ない事を十分に確認したあと塀に向かって一気に駆け出していった。

「はぁっ…はっ…も…もう少し…」

「大変だ!お部屋に名無しさん様がいらっしゃらないっ」

「窓も開いている!侵入者かもしれないぞっ!!」

「まずっ…」

早くも自分が居なくなった事に気付いた護衛達がわらわらと外に出てきたので、名無しさんは急がなくてはならないと思い、必死で門をよじ登り始めた。
ここで捕まったら多分…いや、この先ますます護衛が増え、自分は更に自由がなくなるだろう。
一生籠の中の鳥になるなんて真っ平ごめんだ。
何とか塀の向こうへ下りた名無しさんは、ほっと胸を撫で下ろしていたがライトが名無しさんに照らされたのでその眩しさに思わず眉間に皺を寄せてしまった。

「いたぞ!」

「に…逃げなきゃっ」

「名無しさん様、お待ち下さい!」

「い…嫌!絶対待たない!!」

名無しさんは無我夢中で走り出した。
逃げ出したあとはどうしようこうしようとは考えていなかった。
ただあの屋敷を出たかったのだ。
これから先の事は、その時に考えようと思っていたので生憎名無しさんには行く所も隠れる場所もない。
そうこう考えている内に、目の前に海が見えてきたのだがそれはつまりこの先は行き止まりだという事だ。
名無しさんは息を切らせながら自分を追い掛けてくる護衛達と海を交互に見比べた。
どうしよう、どうしたらいいのだろうか。
今はゆっくりと考えている時間などない。
名無しさんは意を決したように海へ飛び込んだ。

「…はっ…くるし…!」

当然の事ながらこの広い海を泳ぎ切れる訳もなく、水を吸い込んだ服の重さもあり名無しさんの体はどんどん深い海へ沈んでいってしまった。
このまま自分の人生はここで終わってしまうのだろうか。
漸く屋敷から出れたというのにあんまりだ。
意識が遠のく中、リュックの中で赤い光がちかちかと光るのを見たのを最後に名無しさんは意識を失ってしまった。






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