お姫様と殺し屋
□episode9
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「よろしい、説明しよう。いい機会だ。シンタロー、お前も聞いていなさい。これは我が家に古くから伝わる言い伝えだ」
「チッ…分かったよ」
「昔々、今は誰も知らない大きな島に聖なる力があった。島の人々は赤と青の二つの玉の力により、聖なる力を操り幸せに暮らしていた。ある日、島の人々に争いが生じ、青い玉を持つ人々は島を離れ聖なる力は失われた。赤と青の二つの玉を手に入れたる者こそは覇王として君臨する力を手に入れる事が出来るだろう」
「あれ?」
「どうした名無しさん」
「ううん、何でもない。けど、それと似たような話を確かカムイさんとヨッパライダーさんがしていたような…」
「いいかいシンタロー。その青い玉の伝承者が私なのだよ」
「そ…そうだったのか。単なる宝石じゃなかったって訳か。くっ…俺の野望は一体!!」
「秘石売り飛ばそうとしてたなお前…」
「あ、確かに。売らなくて良かったねシンタローさん」
「しかしこのままでは埒があかん!島全体を徹底的に調べつくせ!」
「は!」
「あたしも〜!」
「さあてと…」
「な…なんだよ」
「夕飯の支度でもしようかと思ってね。今日はシンちゃんが好きなカレーだよ」
「帰れよおめえ!」
「あ、私もお手伝いします」
「和んでんじゃねえよお前も!!」
「助かるよ名無しさんちゃん。それより君はいくつなのかな?」
「17才です」
「うんうん、いいね〜。可愛い盛りだ。それで、うちのシンちゃんとはどんな関係なのだろうか」
「え…あの…」
「…恋人の関係だよ」
「なに…?」
シンタローがぶっきらぼうながらにそう答えた瞬間、マジックの顔付きが険しいものになり名無しさんは一筋の汗を流してしまった。
やはり、ガンマ団No.1の息子に自分のような何処の馬の骨とも分からない自分が恋人というのは納得がいかないのだろうか。
それとも、見る限りこのマジックはシンタローを溺愛しているように見えるのでその可愛い息子に恋人などとありえないとでも思っているのか。
何を言われてしまうのかと名無しさんがマジックを見据えていると、マジックは鋭い視線でシンタローを睨み付けた。
「シンタロー」
「あ?」
「お前はいつからロリコンになったんだ!パパはお前をそんな風に育てた覚えはないぞっ」
「ロリコンじゃねえよ!!」
「大体こんなに可愛い可愛い名無しさんちゃんが恋人だなんて羨ましい事この上ないぞ!」
「てめえこそロリコンじゃねえかこのクソ親父!」
「名無しさんちゃん」
「は、はい」
「君がシンちゃんのお嫁さんになってくれるかと思うと今から楽しみだよっ。で、結婚式はいつにする!?孫の顔はいつ見せてくれるのかね!」
「パ…パパ…顔が近いです!それに怖いっ」
「気が早えんだよてめえは!それに名無しさんから離れろ!!さりげなく手なんか握ってんじゃねえよ!!」
「ちなみにシンちゃん」
「なんだよ!」
「まさか名無しさんちゃんに手を出していないだろうね」
「は?」
「いや、出してもかまわんが今はまだそういった事の避妊はきちんとしないといけないよ」
「て…てめえ!いい加減にしろこの変態がっ」
出会った時の緊張感は何処へやらで、目の前で親子喧嘩をする二人を名無しさんは微妙な表情を浮かべながら見据えていた。
それにしても、このマジックという男はいまいち掴めない人間だ。
冷徹な表情を浮かべ、人を殺す事など何とも思わないという残酷な一面を見せていたかと思ったら、今度は人の好さそうな表情を見せている。
しかし、彼はガンマ団の総帥だ。
用心しておくに越した事はないと思いながら名無しさんは、マジックを見据えていた。
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