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□【NL】刀剣乱舞【18】
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「……え〜っまた畑当番〜??」
「うん。体力つけて貰わないと!!この本丸の大黒柱だからね!安定と一緒だから頑張って」
「最近多くない?爪剥がれるし、汚れるからヤダってば〜」

内番の任命をすると清光は不満を言いに来た。口振りからしてどうやら甘えているだけらしい。

「すぐサボる。すぐ疲れたーって言うって安定が嘆いてたよ。疲れるのはまぁ分かるけどサボるのはちょっといただけないなぁ……」
「……もー、安定のやつー!」

安定の名前を出すと矛先は安定へ変わったらしくむぅっとしながら探しに行ってしまった。

江戸城下の出陣や遠征の間に内番担当者は各自配置につく。最初の方は私のせいでもあるけど清光と安定は言い争いをしていたらしい。とはいえ日常茶飯事で他の刀剣も『またか……』程度にしか思わない。長曽祢さんが毎度の如く仲裁に入るためそれで収まってくれるのだ。流石に2人も長曽祢さんには逆らえないらしい。

私は出陣部隊の送迎や内番見学に回っていた。道場には、兼さんと堀川くん。

「兼さん!!今日も凄いです!!」
「そうだろ、そうだろ!まず今日の剣術だがな……」
「はい!!」

兼さんは自信満々だし堀川くんは楽しそうだった。このペアにして間違いない。
馬小屋には、鶴さんとずおー。鶴さんは馬にめっちゃ髪をむしゃむしゃされていた。うん、面白い。

「いやいや驚いた。俺の髪そんなに美味いかい?」

とは言いつつ呆然と立ち尽くしてるのがまた笑いを誘う。

「主さんやい、笑ってないで助けてくれないかい?」
「ごめんね。ふぅー、面白かったぁ!藁に見えたのかなぁ」

人参で気を逸らしてあげるとその隙に鶴さんは脱出した。一方ずおーは馬糞両手に楽しそうだった。

「……ずおー随分楽しそうだね……」
「はい!これは、いい肥料になります!!」
「そっか、汚れないようにね。みっちゃんに怒られるよ」
「ですね!!気を付けますっ」

鼻歌まで歌ってて話しかけるのすら邪魔かなぁとか思ってしまう。まぁ楽しそうで何よりだ。

最後に畑へ向かう。足音を立てないようにそっと近づいてみる。安定の姿は見えるけど、清光は見当たらない。

「清光ー!いつまでそこでボーッとしてるんだよー!いい加減サボるのやめなよ」
「んー……」

どうやらまたサボってるみたいだった。声をかければ頑張ってくれるかもしれない。清光にバレないようにそっと小屋に近付く。
安定に気付かれて口元に人差し指を当て『しー』っとすると気付かないふりをしてくれた。

「清光ー?聞いてるー?」
「…………」

安定の問いに反応がない。声に気付かないほどボーッとしてるのかな……?見える位置にはもう来てるのに私の存在にも気付いてないみたいだし。

「おーい?清光ー?」

もう一度安定が声をかけた瞬間、清光の体がグラリと傾く。そのまま地面へ倒れてしまった。

『清光っ!!!』
「……んぅ……っ」

二人同時に声を上げ駆け寄る。体に触れると明らかな熱さが伝わった。清光は小さく唸り声を上げてそれきりだった。

「熱っ……、なんだよ!清光のバカっ!具合悪かったなら倒れる前に言えよっ」
「安定……。いいから、手入れ部屋に運んでくれる?」
「……うん、ごめん……」

動揺する安定を宥めて、手入れ部屋まで運んでもらった。すぐに薬研が診てくれる。

「うーん……疲れ、だな。2、3日寝てれば良くなるだろ。気失って今は寝てるみたいだな」
「……よかった……」
「……大将相手だし、あんまり言いたくはないが。……毎晩の如くの夜更かし、それでいて出陣も遠征も続いてる。それに加え畑仕事と来ちゃ流石の清光も倒れるのも無理ないな」
「……はい。すみません……」
「……これも言っていいのか分からんが……。刀剣達の取り纏め役をやっている以上弱音を吐けないんじゃねぇか?大分お疲れのようだったぜ」

不満を言いに来たのは限界かもしれないというサインだったのかも。それに気づかなかった自分を忌々しく思った。

「あ、いや……。すまん、説教臭くなっちまったな……。大将を責めてるわけじゃないぜ。あんまり気落ちするなよ。すぐ良くなるさ」

ポンポンと頭を撫でられた。落ち着いたけど気恥ずかしい。薬を受け取ると薬研は手入れ部屋を出て行った。

「またなにかあったら呼んでくれ」

心強い一言を残して。

静かになった部屋に清光の寝息だけが聞こえる。

「……ごめんね、清光。ごめんね……」

額のタオルを変えながらひたすら謝罪を口にした。こうなったのは私のせいだ。私がもっと早く気づけたら。

「……んぅ……っ……」

零れた涙が清光の頬に落ちてしまう。唸り声を上げてもぞもぞ動いたけど寝返りを打っただけだった。その拍子に布団に隠れていた手が出てきた。思わずその手を握るとびっくりする程熱を持っていた。握り返してくれてまた涙が溢れてくる。片手は塞がれたまま流れ落ちる汗を拭き取ったりしているうちに清光の寝息に誘われたのか、眠ってしまったらしい。

「……主、あるじ!……あるじってば……」
「んぇ……っ?……あっ、ごめん……寝ちゃってた……」

頬を爪で突かれて目が覚める。気だるそうな清光の姿が目に入った。苦しそうではあるが笑顔を浮かべていた。

「ふふ……っ……可愛かったよ?……でさ、俺……畑にいたはず、なんだけど……」
「あ、うん……。小屋の前で倒れちゃって……」
「……あー……。……ちょっとボーッとするなぁって小屋の前で休んでたんだけどそっか……」
「ごめんね……気づけなくて。本当にごめんね……苦しいよね……」
「ちゃんと言わなかった俺も悪いよ。心配かけてごめん……。俺は大丈夫だから、そんなに自分を責めないで……?」

そうは言うけどやっぱり辛そうだった。あんなに手熱いんだもん……。汗だって凄いし……。

「お粥か何か食べて……えと、もう一度薬研に診てもらう?」
「……寝てる間に診てくれたんでしょ?変わらないよ。……食欲はないなぁ……」
「でも、何か栄養つけないと……!!食べられる分だけで残して大丈夫だから、私作るし!」
「……んー……やだ。主は傍にいて?……お粥は燭台切に任せるよ」

清光の言う通りお粥作りは燭台切に任せることにした。お粥が出来上がってくるまで沈黙が続く。
手だけは繋いだままだった。清光が離してくれなかったのだ。しばらくして燭台切がお粥を運んできてくれたがその頃には清光はうとうとし始めていた。

「清光?お粥出来たよ?……清光?」
「……んぇ……?……あー……ちょっと寝そうになってた……」

目がトロンとしてて可愛かった。可哀想だとは思いつつも何か食べないと薬研から受け取った薬を飲ませることができない。

「清光、起きれる?」
「ん……平気、へいき……」

流石燭台切。スムーズに清光を起こしてくれた。清光はちょっと不満そうだったけど。

「じゃあ主、あとはよろしくね」
「え?あ、うん。ありがとみっちゃん」

燭台切は空気を読んで部屋から出て行ってしまった。

「……主。……俺、やっぱり食欲ない……」
「……仕方ないなぁ」

本当に食欲ないのかもしれないけど絶対半分は甘えてるのは分かっていた。こんな時くらい仕方ないなって思うし、不謹慎だけど弱ってる清光は可愛かった。

小鍋からとんすいにお粥をよそってレンゲで掬う。息を吹きかけてちょうどいい熱さまで覚ますと清光の口元へ持ってくる。
少し躊躇いながらも食べてくれた。

「……んー……味よくわかんないや……」

熱で味覚が狂ってるみたいだった。それでも私があげると食べてくれる。

「……主。ごめん、これ以上は……」

それでも3分の1は食べられた。

「食べたら、なんか……また眠くなってきちゃった……」
「そうね……ゆっくり休んで?でもその前に……」
「……?」

眠たそうに目を擦る清光。私は薬研から受け取った薬を取り出す。その様子を小首を傾げながら見つめていた。

「お薬。薬研ちゃんから飲ませるようにって」
「……うげ。……そんなの飲まなくても寝たら治るよ」

露骨に嫌そうな顔をする。確かに苦いかもだけど……薬研ちゃんが早く治るようにって作ってくれた薬だし。

「……清光。飲まなきゃダメだよ」
「……俺からは絶対飲まない。そんなに主が飲んで欲しいんだったら主が飲ませてよ?」
「……もう……また甘えるんだから」

甘えてきてくれるのが内心嬉しかった。清光が主である私を必要としてくれているならそれに応えたいと思う。
玉のお薬と水を自分の口に含む。清光の口に重なり薬ごと水と一緒に流し込んだ。

「……やっぱ苦い……」
「薬だもん。良薬口に苦しって言うでしょ?」

無事に飲み込んでくれたが苦味を感じたのか不味そうな顔をする。むくれる清光を宥めて寝るように促した。

「……主……。そばにいてよね……」
「約束する。だから、ゆっくり休んでね」

清光は安心したようですぐに寝てしまった。少し荒い寝息が聞こえてくる。

「清光やっぱまつげ長いなぁ……」

普段、寝顔を見つめることもそんなにない。よく見ると整った顔をしていた。少し寝苦しそうではあるけどあまりにも綺麗な寝顔だからドキッとしてしまう。

「主さん、清光どう?」
「あ、安定。どうぞ、入って?」

あまりにも動揺してたから安定にはこの部屋まで連れてきて貰ったあと自室待機を命じていた。落ち着きを取り戻したみたいだから中に入ることを許した。

「……残しちゃったけどご飯食べて、薬も飲んで今は寝ちゃった」
「元々食細いからなぁ。薬飲んだのは意外。主さんの言う事だと清光も聞くんだね」
「まー……」

甘えてきたとは言えず言葉を濁す。あまり気にしてなかったようでそれ以上突っ込まれることは無く、日常の話を話してくれたのを聞いていた。(ちょっとした愚痴に近かったけど)

長い時間待っていたけど清光はぐっすり眠っているみたいでなかなか起きなかった。安定は起きるまで待つつもりでいたらしいが出陣しなければならなかったので叶わなかった。

「主さん清光のことよろしくね」
「うん。いってらっしゃい、気をつけて安定」
「ありがとう」

安定が出ていくとまた静かになる。
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