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□春雷
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2階へ上がるとラクサスはソファに足を投げ出して座っていた。片手には葉巻、机にはウイスキー。自分だってお酒を飲むことはあるのに、昔とは違う彼の姿に自分勝手に苦しくなった。

「あんな風に言うことないんじゃないの」

先ほどのことをたしなめようと出た声は思っていたよりもか細く説得力の欠けらも無いものになってしまった。それに不愉快そうにこちらを睨みつけ立ち上がった彼がこちらに向かってくる。レイナは動くことすらできなかった。

「あぁ?何をお前はビビってんだ?」

レイナの前で足を止めた彼が、射抜くような目で見下ろす。彼の発した言葉にレイナは思わず息が詰まった。確かに彼からしたら何もしていないのに、怯えられても鬱陶しいだけだろう。でも、彼が知らない人に変わってしまうような恐怖をレイナはとめることができなかった。
何も言わないレイナに痺れを切らしたラクサスが舌打ちをしながら、レイナの腕を掴んでソファに放り投げる。彼もソファに乗りあげると、レイナの服に手をかけた。

「嘘でしょ。ここギルドよ?」
「この喧しいなかで何をしてもバレやしねぇよ」
「ミラちゃんが上がってくるかもしれないわ!」

焦りから先ほどよりも普通にでてきた声に彼は満足そうに喉を鳴らして笑いながら服を強引に剥ぐ。前のボタンがいくつかちぎれ、くしゃくしゃにして投げ捨てられたのを見て抵抗を諦めると彼はより一層満足気な笑みを浮かべた。
彼と身体の関係をもつのは初めてのことではなかった。彼の周りには綺麗な女の人がたくさんいて、昔みたいにレイナが傍にいることを許してはくれないくせにこうして気まぐれに抱く。ただ、彼を否定すれば傷ついた様な、受け入れれば満足そうな素振りを見せることがレイナをより一層混乱させた。
彼の真意が分からない。
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