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□FT short
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喧騒に包まれていたギルドが水を打ったように静まり返る。騒がしいの代名詞といっても過言ではない妖精の尻尾ではあまりにも珍しい光景だった。
「ニャ?」
静寂を打ち破ったのは何も分かっていない原因そのもの。可愛らしく首を傾げた少女は不思議そうに横にいる男を見上げる。男はダルそうに顰めた顔を少女に向けると自分の腰あたりにある丸い頭に手を乗せた。
次の瞬間ギルド中から悲鳴があがる。
「「えええええええっ!」」
「誘拐か!?」
「もしかして実子?」
「どういうことだよ!ラクサス!!」
あまりな物言いにラクサスと呼ばれた男が青筋を立てて雷を落とす。この男の場合の雷を落とすとは比喩ではなく、文字通りの意味だ。何人かの犠牲をだしながらもようやく落ち着いたギルドの面々にあからさまに呆れた顔をしたあと、何が起こっているか分かっていない少女の背中をおした。
「ほら、挨拶しろ」
「うん!えっとね、レイナです!エクシードです!妖精の尻尾に入ることになりました!よろしくお願いします!!」
ラクサスの言葉に元気よく返事した少女はその勢いのまま自己紹介をする。そして自らがエクシードだというのことを証明するかのように本来の羽が生えた可愛らしい猫の姿に変身してラクサスの肩にのった。
「あのね、あのね、今日はシャルルとウェンディが遊んでくれたの!」
「そーかよ」
「うん!楽しかったの!」
「良かったな」
レイナがやって来て1ヶ月ほど。明るい性格によってすぐにギルドに打ち解けたレイナは毎日楽しそうにしていた。
なんでもハッピーやシャルルなどギルドに所属するエクシードの噂を聞いてずっと憧れていたそうだ。そんなときに魔物討伐の依頼で自分の住む森に訪れたラクサスに無理矢理くっ付いて来たらしい。以降、ナツとハッピー、ウェンディとシャルル、ガジルとリリーといったようにラクサスとレイナも寝床を共にし仕事へ一緒に行っている。
彼女はもともとの魔力が高くシャルルのように人型になることができた。意外にも美味しい料理を作り、筋肉のせいで重いラクサスを抱えても悠々と空を飛ぶ。なにより無邪気な笑顔を見せて自分に懐くレイナにラクサスも悪い気はしなかった。
「明日は出掛けるか」
「お仕事?任せて!!」
意気込むレイナに頼もしいものだなと口角をあげるが明日の目的は仕事ではない。
「ちげぇよ、ハルジオンにでも行くか。海見てみたいんだろ?」
「お魚!?」
「あぁ、そうだな」
本当ならビーチにでも連れて行ってやるべきなのかもしれないが生憎今は海で泳ぐような季節でもない。それにハッピーと同じように彼女は魚が好きなようだった。ハッピーのお魚食べる?というセリフに肯定を返して生魚を一緒に食べたのは彼女が初めてではないだろうか。
「二人で?」
「誰かと行きたいのか?」
「二人がいい!!」
シャルルやウェンディと仲がいいらしいレイナが彼女たちと行きたいと言い出したらどうしたものかと思ったが彼女は自分と二人がいいらしい。素直で可愛らしい彼女にラクサスもなんだかんだで絆されていた。
彼女が喜ぶならたまには乗り物にのって酔いの苦しみと戦うことになっても構わないと思うぐらいには。