Boys

□思い知らず
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宿を出たところで遭遇した、栗色の髪の男が静かに呟いた。
「黒猫が、死んでいました」
「…沖田。早朝から縁起の悪いことを言うな」
挨拶の前に知らせる事ではない。顔をしかめて咎める。
すると、すみません、とうっすら笑みながら沖田が謝る。常と変わらない作った笑顔だ。
だが何時まで経ってもこいつの瞳が逸らされることはない。
「……」
最近、沖田について発覚したことがある。何事か訴えたい時の癖だ。恐らく無意識に違いないが、射抜くほどに熱い眼差しを送る。
「沖田」
「はい、何でしょうチナミ」
名を呼べば即座に返ってくるいらえ。
笑みはそのまま、首を微かに傾げた。依然として目線は交わったままだ。
「仕方ない…行くぞ」
俺は溜め息を吐き出すと共に、眼前の男の手首を掴んで大股に歩き出す。
「どこへですか?」
目を瞬かせ心底不思議そうに尋ねてくる対(つい)へ、呆れとほんの少しの苛立ちを込めて告げる。
「その黒猫の所へだ!弔いをする」
沖田がそれを望んでいる自信と確証はない。
元々感情の起伏が見られないこいつの意図は読み取り難いのだ。
それでも。
淡々と事実を述べる口と違い、やわく細められた紫色は、未練を残していると思った。
関心が無いのであれば、俺に報告する理由もないのだからな。
「黒猫の弔い…なぜそんなことをチナミがするのですか?」
「っお前が気にしているからだ!」
「僕が…?」
俺の言動の意味を解っていない沖田に、つい口が滑った。後悔しても後の祭りだ。案の定、沖田は得心のゆかぬ顔をして立ち止まり俺を見る。
顔が赤いだろう事が自分でも分かる。
ええい、ここまできたら言ってしまえ。
「お、俺の直感だ!猫を放っておきたくないんだろう?悲しいとか不安に思っているんだろう?」
「いえ、僕は」
「黙れ!お前の言葉は当てにならん。兎に角大人しくついて来い沖田!」
無茶なことを言っている自覚はあるが、こいつの抵抗がないのをいい事に風を切って歩く。
火照った頬が少しでも冷めるよう祈りながら。



この行動が正義感やお節介からくるのか、もっと違う感情から生まれたものなのか。

きっと今は知らなくていい。



仲間として八葉の対として、沖田をこのままにしてはおけないだけ。





「チナミ、チナミ?」
「なんだっ」
「黒猫を見たのは反対の道なのですが」
「それを先に言えっ!」


ただ、それだけだ。



END.

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