赤色
□それでもいい
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「あ、翔」
「ななしちゃんちゃん」
「ごめんね、急に」
悪びれた様子もなく謝るのはいつもの事でもう慣れた。
別に顔が好みとかそんな簡単なものじゃなくて、こうやって僕を頼ったくれるところとか不意に見せる悲しげな表情とかがいつの間にか僕の胸を満たしていた。
「私、彼氏が出来たの」
そうポツリとつぶやく君に毎度の如く胸は痛む。
だけど、別にいいんだ。
ななしちゃんちゃんがいつまでも頼りにしてくれてる、それだけでいいんだ。
「そっか、今度はどんな人?」
「翔もよく知ってる人だよ」
「知ってる人?」
「うん、豊くんなの」
顔を赤らめて言う君に初めて抱いた感情。
どうして、豊なの
よりによってなんで…
でも、そんなことを言う勇気を持ち合わせてないからまたこうやって、話を聞いてくれる友人止まり。
「そう、なんだね…豊かっこいいし優しいから、ね」
動揺を隠せないけど、上手くいえてるのかな。
「ふふ、翔なら応援してくれると思った」
嬉しそうに微笑むななしちゃんちゃんが憎くて愛おしい。
自分じゃ適わない相手。
でも諦められない。
だってずっと見てきた人
ずっと思い続けてた人なんだから。
「それでね、」
なんて、僕の気持ちも考えずに沢山幸せそうな話をする。
いつもの事なのにどうしても引っかかる。
前までの僕ならきっとうまく交わしてたはず。
幸せそうな顔を見れるだけで満たされてたんだ。なのにどうして今回はこんなにも胸が痛むんだろ。
どうしようもない事なのに。
「あ、豊くんだ」
そう言って外を見つめるななしちゃんちゃん。
その姿を見つめることしか出来ない。
少し大きめの耳に髪をかける仕草に目を奪われる。
細くて長い指で髪の毛に触れる姿は綺麗で満たされる。
「行かなくていいの?」
「んー、行こっかな。ありがとね」
そう言ってお金を置いて店を出ていく。
その後ろ姿をずっと目で追っていた午後3時。