book ー偽りなき涙
□男達の苦労
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「あぁーーー」
「ハァーーー」
町外れの村にある小さな酒場にて、うめき声とため息を漏らしているこの俺達は、まだ夕暮れだというのにもかかわらず、もうかなり酒を飲んでいた。
「一体、どうしちまったんだオレの体は
……。」
「な〜んか乗り気じゃないよなぁ、今日は。」
島に降りた最初は、俺たち二人たもそれこそスキップでもしそうになるくらい、そりゃぁもう浮かれていた。
だが必要なものを買い、いざ遊びに行こうとするも、なにかしっくり来なかった。
屋台の美味しそうなものを買い食いしてみても、いざ女の子と遊ぼうとしても、
いつものそれとは違っていた。
美味しさも、楽しさも、なにか違う感じがしてしまうのだ。
色んな事を試してみるも結果は同じでついにやることもなくなり、こうして早くから酒場に入ったというわけだった。
「今朝、アイツにあんな反応した俺はなんだったんだよ。」
「そうそう、あんなに過剰反応したのにな、なのにオレどうも今日は特にそっち方面に気乗りしないんだよなぁ。」
気がつけば考えている、船に一人残してきた少女の顔。
あぁなんなんだ今日は、本当にパッとしない1日だ。
船で女は彼女だけだから反応していたのかと思っていたが、現実はどうだ、この有り様だ。
島に降りて、女もより取り緑で腐るほどいるというのに、実際考えているのは結局、いつも近くにいる彼女の事だ。
まぁでも仕方ないかも知れない。
普段一緒にいてふざけ合ってるせいか忘れがちたが、よく考えてみれば彼女は誰の目からみても間違いなく美しい容姿なのだから。
………………美しい、 ……よう、し、……
「あ、あぁ〜そういうことかぁ。」
今まで忘れていた事を思いだし、おれはひとり納得してテーブルに突っ伏した。
「な、なんだよペンギン、急になんか納得して、」
「いいか、よく考えてみろ?俺たちと常に一緒のアイツは、ローズ は、忘れがちだがメチャクチャ可愛いかっただろ!」
はたからみたら相当ヤバいやつにしか見えないだろう、だがそんなことは関係ない。
これでやっと今日1日のモヤモヤがとれるのだから。
「そういえばっ! な、なんだそういう、。そりゃアイツに比べれば他の女なんて、なぁ?」
「そうだよ無理ねぇって。ただ目が肥えすぎて他の女レベルじゃ反応しなくなったってたけだ!」
そういった後、俺たちの間に沈黙が訪れ、数秒後まだなにも解決していない事に、いやむしろ事態はより悪化していたことに気付く事になった。
「「良くねぇーーーーーーっ!!」」
「だってそりゃあれだろ?、むだに自分の中での女のレベルがバカみてぇに上がっちまったってことだろっ?」
「アイツレベルなんて滅多にいないっ! ってことは俺達、もう大体の女じゃ反応しねぇよ!」
今度は二人してテーブルに突っ伏した。
そしてこう呟く。
「「男として、……終ワッ、タ…………」」
完全に色を失った俺達は、もうどうにでもなれとただやけ酒を煽った。
彼女への愚痴を語り合いながら、ときには笑いながら、この虚しい時間を過ごした。
なぜだろうか、さっきまで絶望の極地だったのに彼女を憂さ晴らしのネタに話していたらなんだか楽しい気分だった。
そうしてからどれくらいたっただろう、尽きることなく彼女の話題を肴に飲んでいた俺達の元に、店の主人が酒の代わりをもってきたときに話しかけてきた。
「お客さん、そんなに大事な子なら、早く戻ってやったらどうだい?」
ひとの良さそうな笑顔でそういった主人。
たがその思わぬふりに、おれはカッコ悪いくらい浅いセリフを吐いた。
「いや、そんなんじゃねぇって、」
それをみて、また主人は可笑しそうに笑う。
「クスクス、そうか?さっきっからずいぶん長いこと嬉しそうに、そのローズ ってこの話をしてるからさ。」
「「! 〜っ!」」
それ以上なにもいいかえせず、俺達は茹でダコのように顔を赤くするしかなかった。
「お兄ちゃん、!」
「え、?」
「おい、右だよ、」
「あっ。おい坊主、どうしたんだ?」
今度は主人とは別の、子供もの声が聞こえ、その発生源をおれはみつけはなしかける。
「ローズお姉ちゃんのお友達でしょ?」
「「 !! 」」
「あのね、ボク今日、お姉ちゃんに助けてもらったの!!」
そう嬉しそうな顔で微笑む少年は、本当にキラキラとした目で彼女の事を話してくれた。
「あんた達がさっきっからいうその子、海賊からうちの子を助けてくれたらしいんだよ。…………白いツナギをきてたらしい。アンタ達の、仲間なんだろう?。」
そう話した店の主人は、有難う、と深々と頭を下げた。
俺達はというと、まだ下げられた頭が上がらないうちに、ニヤリと顔を見合わせ席を立つ。
「あ、お代はいらん、息子を助けてくれた礼だ!!有難うと伝えてくれ!」
そう後ろから叫ばれる声を耳に、店を後にする。
その顔は先ほど彼女の話をしていたとき異常に、生き生きとしている事だろう。
彼女の元に帰る理由が見つかったと言わんばかりに、その話を聞いた途端足は船へとむかうのだから、これではまるで大の男が女に振り回されているようなものだ。
いや、実際悔しいくらい丸っきり振り回されている。
「くく、アハハ!! 帰ったら問い詰めてやるか!」
「ふっ、そうだな!何しろ普通ならまだ遊んでる時間だ、楽しい夜はこれからだもんな!ん、アレ船長じゃないか?」
「あれ、本当だ。やっぱあの人もなんだかんだいって、ローズ がいなきゃ楽しくなかったんだろうな。おーい、船長ーー!」
そう長身で大きな刀を担いだ男に向かって叫べば、歩みを止めることはしなかったものの、こちらをみてスピードを落としてくれた。
そして追い付いた俺達は、今度は四人で彼女の待つ船へと帰るのだった。
だがしかし、一人の女にこれだけ御執着とは、名のある海賊が聞いて呆れる。
きっとあれだ、酔いが回ったんだ。それか海賊とケンカしたらしい彼女が心配なんだ、きっと。
解りきった理由を認めたくないが故に、俺はそう俺自身に言い聞かせるのだった。
「そう言えば、アイツなんか海賊とケンカしたらしいっすよ?」
「……………………。ハァ、アホに船番は無理だったか……。」
「ええっ、ローズ けがとかしてないかなぁ。」
「ま、大丈夫だろ。」
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ー 今日1日が楽しくない理由 ーー
ーー それは勿論、
彼女が隣にいないから ーーー