book ー偽りなき涙
□海軍見習いの青年
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『ヘェー、ルフィの友達かぁ!』
「はいっ!って、えぇっ!?、ローズ さん腕から血がっ!」
「本当だ、お前、大丈夫なのかよそれっ、!」
『あぁ、うん。さっきちょっとね。』
「た、大変だっ! すぐ手当てするんで、取り合えず人気のない所に行きましょう!」
『あ、あらら?』
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声をかけてきた若い海兵二人は、なんとルフィの知り合いだと言う。
海兵といったいどういう経緯で知り合ったのか…………興味津々ではあったのだが、腕から滴る血に気づいたピンクの髪の毛の海兵に、半分連行されるように連れられ、今現在なぜか手当てをされている。
「うぅ、 み、見てるだけで僕のほうが倒れそうです」
「ま、まだかコビー、おれそっちみたくねぇんだよぉ。」
手当て、…………してくれてるのはいいんだが……、アタシがツナギの上をぬいで負傷した肩を出したとこからまったくすすんでいないのはどういう事なんだろうか。
この反応を見るに、恐らく戦争のせの字もない平和な世界で生きてきたのだろう、いや、それはこの際もういい、平和でなによりだ。
ただ、問題なのが、今いる場所がアタシ達の船が止まる"岬"だということだ。
そう、海の目の前なら当然、潮風がある。その潮風のなか直に傷口が晒されたままなのだ。
『あ、あのー、ウチの船長医者なんで、別に手当てしてくんなくても平気だよ?そもそもアタシ、応急措置くらい自分で出来るし。』
「いいえっ、怪我をしてる方を無視なんて出来ませんから!」
『oh、……そうかいコビーくん…………。』
入ったままだった弾を取り出し傷口を消毒して、清潔な包帯を巻く。
そんなけのことだ、自分でやったらものの数分で出来ただろうに、今回はずいぶんかかったものだ。
ギュウー
『いっ!、あたたっ、絞めすぎだよコビーくん。』
「あ、すいませんっ! あの、ローズ さん、」
包帯を絞めてくれていた彼は急に真剣な面持ちで問いかけてきた。
『なぁに?』
「もしも海で貴女にあえたら、ずっと聞こうと思ってたんです。」
岩に座って海を眺めながる三人の間に、つかの間の沈黙が訪れる…………。波の寄せては返す音を聞きながら、アタシは静かに言葉の続きをまった。
「ローズ さんは、海賊の中でも特に過激な行動を取ることで結構有名なんです。………鬼の姫、とか言われてるけど、僕にはそうは思えなくて、……。きっと貴女も、ルフィさんと同じ優しくて強い人なんだろうと思ってました。」
アタシのことを彼は "優しい"、といってくれたが、ゆっくりと丁寧に語られた言葉からはむしろ、彼のほうの優しさをかんじる。
『……アタシは、強くなんてないし、優しくもないよ…………』
「……え」
『アタシもルフィもみんな、弱いから強くなろうとする。………人の痛みや、苦しみを知ってるから、……………常に優しくあろうとするんだよ。でも人って、そういうもんでしょ?』
そう彼に笑いかたが、なぜかコビーくんは固まったままだ。あ、ヘルメッポくんも。
ボソッ
「やっぱり、貴女達兄妹は凄い人だ………。」
「な、ならお前、なんで海軍の基地壊すんだよっ!」
『いやそれはさぁ、そろいもそろってクズばっかだったからかさぁ。正義は弱いものを傷つけないっていうアタシのポリシーに違反してたんだもん〜。』
「傷つけない、正義……………ローズ さんは、なにをしようとしてるんですか?」
『………アタシはね、ずっと探してるの。本当の自由と、本当の正義の2つを。今の仲間となら、その答えが見つかる気がするんだ!…………それに、アタシが支えたいと思う男は、船長だけだもの。』
最初に海に出たときは生きるので精一杯で、自分がなにをしたいのかなんて考えてもいなかった。
一人でやっていけるようになった最近も、元々嫌いだった海軍と敵対すればするほど正義も自由も分からなくなっていた。
そんな中で彼に、今の船の船長に出会った。
あの時拐われていなかったらアタシは今も一人、目的も夢も忘れ、暗い闇の中をさ迷よい続けていたことだろう。
『アタシはね、もう一人じゃなくなった。あぁ、でもそれはあなた達海軍にとっては悲報ね。守ってくれる仲間がいるってことは、今まで以上に思いっきり暴れられるってことだもの。』
そう挑戦的な笑みを浮かべ彼らを見るが、動じてる所か、むしろ強い光を宿した瞳をしていた。
まぁ、あの人に育てられてる海兵だ、こんなやり取り何かでビビりはしないか。
いやもしかしたらある意味、とんでもない海兵を育ててやしないかあのジジィ。
「貴女の暴走を止めるのが僕達の仕事ですからっ!」
「馬鹿げた理由はお互い様だ。ヒェッヘッヘッ!」
『そうね。今度会うときは敵同士。そんときはアタシも容赦しないからね。』
ザザァーン
手当てしてもらって話し込んでいたら、いつの間にかもう太陽は空のてっぺんに登っていた。
波にキラキラと反射した光を背に、アタシは彼らを見送る。
「そろそろ僕達行きますねっ、こんなところ見られたらガープ中将になんて言われるかっ、」
「げんこつ何回喰らうことかっ、じゃあな、包帯ちゃんと代えろよっ!」
バタバタと慌ただしく戻っていく彼らを横目に、なんだか今日は色んな事がある日だなぁと思わず苦笑いをしてしまう。
思わぬ出会いがあったからまぁ、人助けで鉄砲に撃たれてみるもんだなぁと思う。
「ローズさんっ! 最後に一つだけっ」
突然走る脚を止め振り返ったコビーくんがアタシの名前を呼ぶ。
その後聞かれた最後の質問の意味を理解した数秒後、彼の問いにアタシは、今日一番の笑顔で笑うのだった。
ぼそりと呟いたその答えは、恐らく彼らには聞こえなかっただろう。
『クスクスッ、あー、もう昼すぎかぁ。』
完全に彼らが見えなくなると、再び船に戻りまた暇な船番が始まるのだった。
アタシはゴロリと甲板に寝転る。
叫び声も聞こえないし回りに人の気配もしないので、今度こそ眠りに着けそうだなぁと呑気に空を見上げ考る。
波の打ち寄せる音を耳で聞きながら、静かにアタシは目を閉じた。
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(ローズさん!最後に一つだけっ)
(なぁーにーー?)
(貴方は、今、幸せですかっ!)
(!! クッ、ククッ、アハハハッ!…………えぇ、幸せよ。これ以上ないくらいに……。)
ー そう答えた紅髪の少女は、それを決して本人達には伝えないのだった。ーー
(ー ある穏やかな日の昼下がりの、誰も知らない、内緒話。ーー )