book ー偽りなき涙
□序章
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「ウワァー、たくさんヒトがいるね、キャプテン。」
「あぁ、地獄絵図だがな。」
あれから男達はカジノへ入り、酒を飲みながら適当なゲームで遊んでいた。
手持ちの金を全て失い泣き叫ぶ声や、イカサマがばれて連れて行かれる者など、目に映るのは実に不愉快極まりないモノばかりで決していい気分ではない。
店に入ったは良いものの特に面白いこともないので、そろそろ店を変えようかと男達が話し始めていたその時、
入り口のほうから大きな音が響いた。
ドッゴォーーン
シューー
「チッ、 何事だ?」
土煙の立ち上がる中先程の音が扉が壊された音だと気付くと、海軍でも来たのかと男は警戒して自身の肩程もある大きな刀に手を掛ける。
そして音のした方向を目を凝らして伺うと、店へ入ってくる何人かの足音が聞こえてきた。
「あっちゃ〜。やり過ぎたかな?」
「(女の声…………?)」
煙が晴れたそこに立っていたのは、驚く程綺麗な顔立ちをした不思議な雰囲気の女だった。
「うわっ、あの子スッゴい可愛いね」
「…………(っアイツは、)」
恐らく扉を蹴り破ったであろうその女は、何やら呑気に当たりを見回している。
店の中にいた客は驚いたり騒いだりする以前に入ってきた女に釘付けだったのか、当たりは静かだ。
女はシンプルな黒のドレスに身を包んでいて、スリットからは白く長い脚が伸びている。
真紅の髪と金眼が少々異様だがそれでも、彼女は男が出会った女の中で最も美しかった。
「ハッハッハッ! さすが私の妻になる者だ。実に豪快で美しい。」
彼女の後ろから見るからに金持ちそうな男が楽し気に笑いながらつかつかと店へ入ってきた。
だがそんな気分のよさそうな男とは裏腹に、女は男の方をグルリと振り返るとその綺麗な顔を思い切りしかめる。
「うるせぇーな、妻にはなんねぇって言ってんだろーがさっきっから。」
「ふん、それはここで決まるさ。おいっ店の者、デスポーカーだ‼」
ザワ ザワ
「正気かっ? あのネェーチャン。」
「アイツ相手にこれをやって勝ったやつ
なんていねぇーぞッ!」
女に睨まれた男がデスポーカーとそう口にしたとたん、先程まで静かだった店内は打って変わり一気に騒がしくなる。
「キャプテン、デスポーカーってなんだ
ろね?」
「さぁな。だが面白くなってきたじゃねぇーか……楽しめそうだ。店の変更はなしだ。」
「そ、それでは、互いに欲しい物を」
ディーラーが震える声でルールを説明し、互いに掛けるモノの確認が行われる。
「私は勿論、この女だ。」
「アタシは、コイツの持ち金全部よ。」
「了解しました。では、始めます。」
最後の確認を終えたディーラーがゲーム開始の合図を告げる。
それにしても自分自身が掛けの対象になっているにも関わらず、当の彼女は依然として堂々とした態度だ。
自身満々な金持ちの男と自身満々な謎の女の一世一代の掛け事。
当たりはもう一面、この前代未聞の勝負に釘付けだった。