人魚姫は幸せをただ願う
□事の発端
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『はぁ…ッはぁ…ッ』
逃げなきゃ。このままだと私は死ぬと思う。主に精神的に。
脳内では警報が鳴り響いている。
どこか遠くへ、遠くへ逃げなくては。
事の発端は数時間前に遡る。
色々とめんどくさいから簡潔に説明すると、私は売られたのだ。
親もいなければ友達も、知り合いすらいない。
日本では、親切な人が食べ物を恵んでくれたり家に上がらせてくれたこともあった。
その生活もきつかったが、今に比べるとそれも幸せだったと思う。
公園の木の陰で寝ていたはずの私だったが、いつの間にか周りが揺れて振動している事に気が付いた。
無理矢理意識を覚醒させ、状況を把握する。
手足は縛られ、これは…車か。
「気が付いたようだね」
『…どなたですか』
「ふ、そんなことはどうでもいいだろう。」
何言ってやがるこいつ。
『これはどういう事ですか』
「人身売買、という言葉を知っているかな?」
知ってるわ喧嘩売ってんのかよこいつ。
『…私を売るってことですか』
「頭の良い子で助かるよ。つまりそういうことだ。君は身寄りがないだろう?だから新しい家族の元へ連れて行ってあげるよ。」
家族、という存在への憧れは強い。
だけど、こいつがいう 家族 が 家族 ではないことぐらい、私にもわかる。
流石にそこまで馬鹿じゃない。
きっと痛いこととか酷いことされるんだろうな。
逃げようにも、この状況ではそれも叶わない。
『どんな人に売られるんですか』
「君はよく喋るね」
だって売られるのなら、少しでも多くの情報を得ていた方がいいでしょ。
『…教えて下さい、お願いします。』
「ほう…フフッ、いいだろう。今回の取引先は…そうだな…女癖の悪い酒豪の男だったかな」
最悪じゃんそれ。
これから自分の身に起こるであろうことを想像すると、吐き気がしてきた。
「もうすぐ着くぞ」
男は笑う
「着いた。降りられるかな?」
男はそう言って足の拘束だけを解いていく。
舐めんじゃねぇよ黙ってくれ。
身体がキシキシと悲鳴をあげながらも、車から降りる。
…えっ…?
なんか、なんか違う。ここ知らない。
いや、知らないのは当然なんだけど、周りの風景が、その…初めて見る。
ここ、外国、…?
『ッ……』
急に恐怖が押し寄せてくる。
「あぁ、知らない土地に来て怖くなったかな?ここはスウェーデンだよ。ほら、行くよ。無礼のないようにね。」
スウェーデンって、どの辺?聞いたことはある。
公園で女子高生が イタリア人がかっこいいやらスウェーデン人がかっこいいやらって騒いでたから。
なんて考えている暇もなく、背中を押される。
髪の毛引っ張られるぐらいはするかなって思ったけど、やっぱり商品だからそこらへんは丁重に扱われるんだね。
ぼんやりしていると、奥から別の男が現れた。
「ほう…これが東洋の女か…」
「はい、左様でございます。可愛らしく、幼いですが、貴方様もお気に召すかと。」
「ふむ…いいだろう…」
全身を舐め回すかのように見られる。
あぁ気持ち悪い。
「可哀想に…手の拘束も取ってあげよう…痛かっただろう…?」
そういって、男は手の縄を切っていく。
この一瞬の隙を、ずっと待っていた。
男を振り切り、全力で走る。
ここがどこかもわからない、ただがむしゃらに。