short story
□ミラクルガール
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1年の頃からあこがれていた人。ずっと好きだった人。土方くん。すごくモテるし、私なんかとは住む世界が違う人。
近づくことすら出来なくて…このまま話すこともないまま卒業するんだと思ってた。
それが3年でやっと同じクラスになれたの。そして、今回の席替えで…何と、土方くんが私の後ろの席に…!やっと土方くんと近くの席になれた…
珍しく早くから次の授業の準備をして座っている土方くん。今までは沖田くんや近藤くんと休み時間はずっと喋ってたのに。
この席替えで席が離れちゃったから、わざわざ出向くのが面倒なのかもしれない。
あんまりちゃんと話したことなかったんだけど、これは仲良くなるチャンスだよね。
プリント配るときとか受け取る手結構優しいし、どうやら割と常識的みたいだし…勿論味覚以外の話。案外フレンドリーな性格であってくれる事を祈る。
・・・
「あの、土方くん…」
ミントは勇気を振り絞って後ろの席の土方の方を振り返った。
「ん?」
退屈そうで、でも開いてる瞳孔の中に、10%ぐらいの愛想を混ぜたような目がこっちを見る。というか「ミントを捉えた」という方が近い。
睫毛を伏せて、ペンをプラプラと揺らす手元をぼんやりと眺めていた風だった、青味がかったグレーの目に視線を合わせられる。
緊張していて、何か手先で何かをいじっていないと落ち着かない。いや、いじっていても決して落ち着くわけではない。
手に持っていた定規を指先でなぞりながら、必死に言葉を紡ぐ。
「あのね…土方くんって…」
「ソレで俺の命でも狙ってんのか?」
土方が不審そうに眉を寄せて言った。口元は笑っていた。
「えぇっ!?ちがっ…」
顔が一気に熱くなって、まるで発火でもしたのかってくらいだ。
ミントはガタンと音を鳴らして前に向き直る。ついでに定規は机の上に置き、そのまま恥ずかしさで突っ伏す。
ふっ…と、ふき出したような声が聞こえてきた。土方に笑われた事に少しショックを受けた。
「樺出」
名前を呼ばれて振り返る。例えどんなに緊張していても…好きな人に名前を呼ばれたのなら、振り返る以外に選択肢なんて考えられなかった。