short story
□勉強しなさい
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夕方のコーヒーショップに二人の地味な男子高生の影。
・・・
「山崎さん、そういえばもうすぐ期末試験ですね。」
「そうだね新八くん。」
「あのー…ミントちゃんヤバいんじゃないですか…?」
「…うん。確実にヤバイね。」
そんな風に名前があがっている彼女は、俺たちと同じクラスでいつも一緒にいる…いわゆる女友達というヤツだ。
ちなみにミントちゃんはとっても可愛いし地味でもない。そんな彼女がなぜ俺たちなんかと一緒にいるかって?
・・・
ミントちゃんと仲良くなったきっかけ…
そう、まだ2年だったあの日。委員会の会議に出てた俺と新八くんは、突然のどしゃ降りの雨にみまわれていた。
俺が偶然置いていた傘で、寒い光景だが新八くんと二人で相々傘をして帰っていると、もう一人その雨にみまわれている人物がいた。
傘をささずにずぶ濡れで、少し前をフラフラと歩いている女子生徒。それが彼女だった。
あれは同じクラスの樺出さん。3年のカッコいい先輩と付き合っている事は有名だ。
いつも明るくてニコニコしている彼女の、あんな姿は初めて見た。
彼女の足取りは重いようで、すぐ背後にまで追いついてしまった。このままでも気まずいだけだし、新八くんも同じ考えだと思ったので…
「樺出さん」
俺は勇気を出して声をかけた。びくっとして、振り返ろうとしてやめる樺出さん。それでも構わず言葉を続ける俺。
「よかったらこの傘使って」
「…いいよ。私なら大丈夫だから…」
咄嗟に笑顔をつくり遠慮すると、お礼を言う樺出さん。こんな俺たちなんかにまで、無理して笑顔を見せてくれる女の子を大雨の中放っておけるもんか。
俺の傘も、地味な男二人に相々傘されるよりはずぶ濡れの女の子を守れる方が本望だろう。
「俺たち走って帰るから。ね、新八くん。」
「はい!そうですよ。」
「…ホントに大丈夫だから」
説得してみてもやっぱり受け取ろうとしないので、そんな彼女の足元に傘を置いて、俺と新八くんは走り出した。
「ぬ、濡れ透けでしたよォ山崎さんっ!!」
「しっ、新八くん、聞こえるよっ!」
暫く走ってからチラリと振り返ると、俺の傘をさして歩く彼女の姿が遠くの方に見えて安心した。
翌日知ったんだが、その日例の3年生の彼氏にフラレてたらしい。