serial story
□10.
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「はぁ…やっと出来た。」
屯所内を歩く俺。もう2週間もニロ美ちゃんと会っていない。最近ぼーっとする事が多い。疲れている。今頃ニロ美ちゃん何してるんだろ…と、ため息をつく。
しかしこの報告書を出せば長く続いた仕事も一区切りがつく。もうすぐ会えるんだ。
がらんとした一つの部屋。その前で俺は立ち止まる。当時入ったことはなかったが、ここはニロ美ちゃんが女中をしていた頃に使っていた部屋だった。
ニロ美ちゃんは憧れの女の子だった。
優しくて可愛くて、仕事も一生懸命。隊士達だけではなく局長や副長や隊長達にも人気で…俺も好きだった。そんな懐かしい事をふと思い出した。
今は俺の彼女のニロ美ちゃん。今でも信じられないけど。まだまだ実感が湧かないのは、付き合ってから二人っきりで会った事が一度もないからだろう。
仕事柄こんな事があると分かってはいたが、付き合い始めは肝心なんだよ。最初からこんなんじゃニロ美ちゃんに早くも愛想を尽かされちまうんじゃないかと心配になる。
そんな時、携帯のバイブが鳴った。ニロ美ちゃんからのメールだった。
『件名:おつかれさま!
返事遅くなってごめんね!退くんはもうすぐご飯でしょ??私はこれから例の新人の子とご飯行ってくるから、帰ったらまたメールするね♪』
添付ファイルを見てみると、ニロ美ちゃんが満面の笑みでその新人の女の子の肩を抱いて、二人でピースしている写真だった。それを見て、自然に笑みがこぼれる。
辺りを見回す。よかった、誰もいないや。…我ながら今の笑顔は変態めいていた気がしたから。
あーあ、俺だってニロ美ちゃんと写メ撮りてーよ。最近は俺も忙しいし、ニロ美ちゃんは最近職場に入ってきたっていう新人に付きっきりだし?まあ年の近い子が入ってきて、後輩が出来てテンション上がる気持ちも分かるけどね。
いや…でも新人が男じゃなかっただけ良かったと思う。もし男だったら…
・・・
『くのいち先輩、仕事の事で相談したい事があって…』
『そうなんだ…何でも話して?私なんかでよければ力になるよ!』
『じゃあ倉庫の方で…あそこなら誰もいないんですよね?先輩。』
『え…そ、そうだけど…』
『ついて来てください』
ぐいっ!
『あっ…待って…』
新人はニロ美ちゃんの腕を慌しく掴み引いていく。二人の向かう先は勿論、人気のない倉庫だ。
『あの、相談って何かな…?』
『ニロ美…先輩。』
『……?あっ』
年下の新人の腕がおもむろにニロ美ちゃんの腰に回り、抱き寄せられる。
『何!?離して!』
『離しません。…俺、ニロ美さんに彼氏がいる事は知ってました。でも…俺だってニロ美さんの事が好きなんです!』
『そ、そんな事…』
『でも、その彼氏とはもう2週間以上も会ってないんでしょ?』
『そうだけど…』
『俺だったらそんな寂しい思いはさせませんから。いつだって傍にいます!』
真剣な男の眼差しから目を逸らすニロ美ちゃん。
『…………。』
『…俺を選んでくれませんか…?きっと幸せにしてみせます。』
肩を抱く手に力を込められ、ニロ美ちゃんは顔を上げる。そして…かさなる二つの影。
『退くん…ごめんね?』
・・・
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!そんなの俺は認めないぞォォォォ!!!」