長編 HUNTER×HUNTER

□出会いと 過去と 葛藤
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「ステーキ定食、弱火でじっくり。でお願いします。」

「あいよー。奥の席ね。」

案内されて、部屋型のエレベーターに乗る。下がっていくエレベーターとは逆に私の気持ちは昂ぶっていく。ハンター試験にもう一度受験者としていくこと思うと胸が高鳴る。
周りの緊張感、生死の境ギリギリの駆け引き、体の芯から熱くなっていく感覚は何ともいえないものだ。なかなか味わえるものではない。
だがここで冷静さを欠いてはいけないと私は気持ちを静めた。私の目的は受験者を評価し、ハンターとしての資質を持っているか審査することである。気づかれず、付かず離れず慎重に行動しなければならない。何かカモフラージュ手だても考えなければいけないだろう。

その前にヒソカの説得だ。行動が予想不可能である以上説得させるしか方法はないだろう。できれば事情を説明せずにことが運ぶことがベストなのだが、それは虫が良すぎるというものだ。
嘘はおそらくばれる。私もヒソカが嘘をついているときは分かるのだ。ヒソカが私の嘘に気が付かないわけはないだろう。

「はい、番号札をどうぞ...ってシオリさんじゃないですか。お久しぶりです。」

あれこれ考えているうちに着いたようだ。

「お久しぶりですね。マーメンさん」

「話はきいていますよ。たいへんですね。お互い会長には振り回されっぱなしで。」

「確かに。本当に困った人ですよね。」

「これ、番号札です。頑張ってくださいシオリさん。」

「はい。ありがとうございます。」

もらった番号は400番だった。なかなか多く集まっているようだ。
これからのことを考えていると後ろから声をかけられた。

「よう、お前さん新人だろう?」

この人には見覚えがある。新人つぶしのトンパだ。実はこの人はハンター協会で色々と話題に上がる有名人なのだ。
トンパが私を新人だと思ったのは私をハンター試験で見たことがないからだろう。私がハンター試験を受け合格した年にトンパは本試験にいなかったのだ。確かその時、本試験まで来ることができたのは私を入れた4人ほどだったと記憶している。そして全員が合格したのだ。たまに本試験出場までがとてつもなく難しいときがあるそうだ。トンパにはそこまでの力量がなかったのであろう。
新人潰しが生きがいのこの人を無視するのは容易いことだったが、私は新人を演じるのが一番いいと結論づいたため暫しトンパに付き合うことにした。

「オレはトンパ、よろしくな。」

「よろしくお願いします。私シオリです。」

トンパの表情が一瞬緩んだのがわかった。大方私をだませると思ったのだろう。

「おう、これお近づきの印に。」

そう言って渡してきたのはジュースだった。私はこのジュースをどうするか迷った。新人をこのまま演じるのであればこのジュースを飲むのが正解なのだろう。だがこのジュースに何か入っているのは明白であった。いや何かが入っているのは問題ではない。単に飲むのが嫌なのだ。騙された振りをして飲むのは簡単だ。だがこんな人に、たとえ演技であったとしても従うことが感にさわる。これは自分のプライドとの葛藤なのである。時間はかけられないため頭をフル回転させて考えていると横から声がした。

「トンパさーん!さっきのジュースもっとくれる?」

そう言ってトンパを呼んだのは銀髪の少年だった。トンパはなぜか顔が引きつっていた。

「あ、ああ。いいぜ。」

「緊張してるのかな?喉かわいっちゃて。」

そう言って少年がジュースに手をかけたので私は焦った。だがここで止めることは受験者に肩入れしてしまうことになる。またもや自分の中で葛藤が始まったがその間にも少年はジュースを飲んでしまっていた。私は少年が心配だった。体調が悪くなるならまだいいが中身が死なないものだとは限らないのだ。
私は黙って見ているしかなかった。すると少年が口を開いた。

「心配?」

「えっ?」

私は驚き、不覚にもトンパと同じ声を上げるしかなかった。

「オレなら平気だよ。訓練してるから、毒じゃ死なない。」

そう言って少年は離れていく。
私の隣にいるトンパは、呆気にとられていた。私も一瞬固まってしまったが思考を取戻し、少年を追いかけ呼び止めた。
私はなぜか彼の表情が気になったのだ。自身に満ち溢れている言動をとりながらその表情は悲しげに見えたからである。
それに彼に助けてもらったのだからお礼も言わないのは私の意思に反することだ。

「何?」

少年は立ち止まって振り返り答えてくれた。

「あの、ありがとうございます。」

「別に、そんな大したことしてない。君のためにしたことじゃないし。」

「それでも私が助かったことに変わりありませんから。私シオリといいます。よければお名前を教えて頂けませんか?」

少年はキルアと名乗った。私はその名前に憶えがあるような気がしたが思い出せなかった。

「じゃ、また会うかもね。」

そう言って彼は人ごみの中に姿を消した。
それにしても、彼の身のこなしと殺気には驚いた。一朝一夕で身に着くものではないというのに、あの歳でものにしているとは。さらに毒の耐性もあるのだから末恐ろしいものだ。
彼はあの小さな体で何を思い訓練してきたのだろうか。
私には想像できないものだ。

私は彼に何か、人を惹きつけるような強さを感じた。でも突き放すような冷たさも同時に感じた。私は彼を知りたいと思った。
受験生に感情移入してはいけない。それは重々承知していることだがこの気持ちは好奇心に近く、ハンターとしての本能のようなものである。この本能が試験官としての理性を上回らないようにしなくてはいけない。私にとっては難しいことだ。


私は試験官には向いていないのだと思った。






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彼と話していたときに、誰かに見られている視線を感じたんだけど...もう感じない。
かなりの使い手だと思ったんだけど。なんだったのかしら?





 



 
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