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□掃除しよう
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出かける用事も予定も無い天気の良い週末の午後。だけど何故だかエネルギーに満ち溢れている。やる気と体力は十分に有り余っていて。

そんな時。ふと、部屋の隅に溜まって見える埃。


そうだ。掃除しよう



『ねぇ、ちょっと』

「んー...」

『そこ、どいて欲しいんだけど』

「んー...」

『もう邪魔だよ』



掃除機をかけたいのに床でゴロゴロと漫画を読んでいる彼。上下ジャージ姿の完全オフモードだ。襟足のところがピョンと跳ねている寝癖も朝から直されずにそのままだ。

さっきから何度も場所を移すように言っているのに一向に動く気配が無い。


怠けた姿もお手の物。


いいんだけどさ、休日だし。疲れてるだろうし。



「俺のことは気にしないで掃除していいよ」

『そういう訳にいかないでしょ」

「今いいとこだからさー」

『だから、場所移動してよ』

「えー...」

『掃除機かけたいの!』

「んー...」

『早く!』

「......」



ダメだこりゃ...もういいや。


スイッチON / 強


部屋中に響き渡るガーガーという機械音。音の静かな高級掃除機も、吸引力の衰えないただ一つの掃除機も我が家には無い。

ちらりと結弦を見てみるけど、相変わらず微動だにしていない。うつ伏せでご機嫌に漫画を読んでいる。大音量の公害なんて全く気にならないらしい。

とりあえず...端から順に掃除機をかけていく。
私は四角い部屋を丸くかけたりしないのだ。四隅も念入りに、センターラグもしかっかりと、ソファの下も、テレビ台の下も、



.......そして。さて、どうしようか。



『おーい』

「......」

『結弦くーん』

「......」

『ちょっとー』

「......」

『どいてー』

「......」

『......』

「......」



ズボボボボボボボ



「うわっ!ちょっ!何すんの!?」

『大きいゴミがあるー』

「服のびる!くすぐったいって!」

『あれー?とれないなー』

「ちょっ!マジやめろってー!」



面白い。本気で嫌がっている。

どっちが悪いかなんて明白だけど、仕方ない、ここまで必死に抵抗しているんだし、許してあげるか。

無言でスイッチをOFにする。



「はぁー...。何すんのもうー」

『だってどいてくれないから』

「荒療治過ぎだろー?」

『わかったなら別の場所に移動して下さい』

「はいはい、わかりました」



重い腰を上げてノロノロと落き上がる。数歩歩いてソファ前にドカッと座り直して、何事もなかったかのように再度漫画を読み始める。


...何だよ、もう。


こっちは無駄に有り余るエネルギーを発揮して、フル稼働で掃除してるのに。まぁ勝手な自己満足だけども(...それ以外の何ものでもない)

それでも、全く。全然。

見向きもしてくれない。

いいんだけど、別に。

休日だし、疲れてるだろうし。


...あーあ。なんでかな。

なんか急にやる気が無くなる。

電源をOFにした掃除機を片付ける気すら起きなくなってしまった。

私がじーっと見つめて見ても、彼の視線は漫画だけ。

...いいんだよ、いいの。

...わかってる。



「...何?」

『...別に』

「...邪魔なんだけど」

『最初に私の邪魔してきたのは結弦でしょ?』



強行手段。

彼の足の間に座ってやる。俗に言うラッコ座りというやつだ。



「漫画見にくいんだけど」

『いいから、私のことは気にしないで読んで下さい』

「かまって欲しいの?」

『違いますー』

「かわいいねー」

『やめてよ』

「素直にそう言えばいいのに」



漫画をソファの上にポイっと放り投げる。すかさずお腹に手を回してぎゅっと抱きしめられて、

(...あ。もしかして、私の作戦勝ち?)



「もう掃除はいいの?」

『うん。なんかやる気無くなった」

「俺のせい?」

『人のせいにはしません。掃除始めたのも私だし、かまって欲しくなったのも私だし』

「へー。わかってるね」

『ほんとはソファの上とかコロコロかけたかったけど』

「わかったよ、後で手伝うから」

『んーん。もういいや』

「もういいの?」

『うん、それよりさ』

「ん?」



くるりと反転して結弦のシャツを掴む。


もっとイチャイチャしませんか?

(じゃあとりあえず)
(掃除機片付けようか)
(えー。)

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