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□マック議論
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「ほんっと考えらんない」

『...え?何が?』

「その食べ方」

「...え?」


マックでランチしましょう。


週末のAM11:30 店内は家族連れや学生たちでガヤガヤと賑わっている。
お互いそれぞれに好きなセットを注文して、向かい合って座る私と結弦。

カロリー計算とか女子力とか、そんなことは一切気にしない。お腹が空いているなら好きな物を好きなだけ食べたい私が注文したのは、テリヤキマックバーガーのポテトのセット+マックチキンナゲット+マックフルーリー超オレオ+ドリンク。

糖質だとか、脂肪のかたまりだとか、そんなことは関係無い。ボリューミーな見た目と鼻に抜ける香ばしい香りを堪能しながらそれらをモグモグと食していたとき。
目の前の彼から発せられた冒頭の言葉。


「なんでポテトをナゲットソースにつけて食べるの?」

『え?』

「ポテトは塩味でしょ。そのまんまでいいんだって」

『えー。そんなことないよ、ソースにつけて食べた方がおいしいじゃん』

「邪道だわー」

『それにさ、ナゲットソースっていつも少し余っちゃうでしょ。ポテトにディップして食べたら、残さずキレイに食べきれるじゃない?』


急に何を言い出したのかと思ったら、私のポテトディップナゲットソース(そんな名称は無い)が気に食わなかったらしい。


「突っ込みたいのはそれだけじゃないよ」

『え?』


何?まだ何かあるの?カサカサとペーパーを剥がしながらダブルチーズバーガーにかぶり付く結弦。
2口、3口、飲み込んだのち、再度会話を再開させる。


「そもそも、なんでテリヤキマックなのにナゲットのソースもバーベキューなわけ?」

『え?何がダメなの?』

「かぶってるでしょ、味が」


何なんだこの男は。食べ方にクレームをつけてきたかと思えば、今度は人の趣向にまで...


『全っ然かぶって無いです、テリヤキはテリヤキ。バーベキューはバーベキュー。これは別物』

「両方とも醤油ベースでしょ?テリヤキマックを頼んだらナゲットのソースはマスタードにしない?普通だったら」


最後の「普通だったら」にイラっとする。

何?普通って。昔からたまにこうやって付き合わされる結弦の自己都合主義。自分の価値観を人に押し付けないで欲しいんですけど。


『結弦だっておかしいよ』

「は?」


そんなんだったら、私だって言わせてもらう。


『なんでドリンクがファンタメロンなの?』

「はぁ?」

『マックのときはファンタグレープでしょ?』

「何言ってんの?」

『今までずっと黙認してきたけど異論は認めないから』


そう。結弦はマックに行くと必ずドリンクはファンタメロンを選択している。私はそのことがずっと気になっていた。


「ファンタメロンの何がダメなのか全然わかんないんですけど」

『ファンタグレープの立場からしたら、ファンタメロンなんて新入りも同然なの。それをバーガーセットのお供に選ぶなんて私には考えられない』

「誰目線の考えだよ」

『私はファンタグレープに敬意を払っているの』

「話のスケール変わってない?」


勘違いしないでほしいのは、これらの会話は「食べながら」行なわれている。行儀が悪いとか、公然の前でみっともないとか、そういうことは一旦置いといてほしい。

ああいえばこういう。
私と結弦、どちらも一歩の引かない謎の攻防が予想以上に白熱してきた。
これは少しクールダウンが必要だ。
トレーの左上に鎮座するマックフルーリー超オレオに手を伸ばす。
脳が甘いものを欲している。


「それだってさ、普通は食後に食べない?」

『いいの、今食べたいの』

「ふーん」

『それに、食後まで待ってたら溶けちゃうでしょ』

「...そ。」


ざっくりとしたオレオクッキーをたっぷりと絡めながらスプーンですくい上げる。口に含んだ瞬間、冷たさと甘さが口腔内に充満する。

(...甘い。...おいしい。)

目を細めて堪らず舌鼓をうつ。
我ながら実に単純な頭をしているなぁと思う。その自覚は十分。


「おいしい?」

『うん』


折れ線グラフのように上下する感情も、超オレオの甘さ、冷たさ、バニラアイスとクッキーのハーモニーによって。一気にトーンダウンするのだから。

パクパクと食べ進めていると、トントンと指でテーブルを叩く目の前の彼。「何?」と問いかけるのと同時に無言で「あーん」と口を開く。


...かわいい奴め。


多めにすくってまるで餌付けのように口に入れてあげる。特別待遇なんだから、感謝してよね...。


「うまい」

『でしょ?』

「もう一口」

『えー』


結論の出ないやり取りも。30分後には忘れてしまうようなくだらない会話も。むきになって反発して、イライラしたと思ったら、また元に戻って。

(まぁでも、ポテトディップとソースの種類は譲れないかな)


ごちそうさまでした。


「さ。帰ろー」

『うん』

私がわたわたとスマホを鞄に閉まったり、コートを羽織ったりしている間に、二人分のトレーを持ってダストボックスに向かう結弦。

あたりまえのように行う昔からのルーティーン。

その普通の行動と後ろ姿が妙に頼もしくて。

ニヤニヤするのを堪えながら、カラカラと氷を捨てる音を聞いていたのは、言うまでもない。

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