嘘ばっかり

□盟友へ向けて
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A ghost of what used to be
(かつての自分の残像が)

Rushing up behind my eyes
(瞼の裏に浮かぶ)

I can’t tell you everything ne
(全部は話せないんだけど)



見上げる冬の夜空に思うのはただ一人。
今君はどんな感じかな。
どんな空気を吸ってるかな。
どんな音を聞いてるかな。
その瞳で何を見てるかな。
俺の声は届いたかな。


ざくざくと浅く積もる雪の上を歩いて。
アウターのポケットに両手を入れて白く濁った息を吐く。

冬はまだ終わらない。

隣を静かに歩く彼女の存在が今を緩やかに保たせてくれている。感謝はしているけど言葉にはしない。きっと触れないように想ってくれているから。解らないからこそ解らないなりに、傍にいてくれる価値を感じている。

一歩一歩と着実に過ぎている時間。
温い惰性の香りは、今は何も感じない。
心はいつになくフラットだ。



「...もうすぐかな」

『...ん?』

「...23時、回ったから」

『...うん』

「...見たいなぁ」

『...うん』

「...また、会いたいなぁ」

『...うん』



飾りもしない。格好付けたりもしない。
一吹きで消えそうな儚い願い。
安易に叶えようと思えば叶うんだろうけど、それはお互いに理解している。立場もやるべきことも向かう先も声も言葉も何もかも...。

己の需要だって分かってる。憧れになろうだなんて烏滸がましいことは思って無いけど、せめてただ一人の、君にとっての「光る存在」で有り続けたいんだ。

(...なんて。そんなの今更だけどさ)

こうやってただ雪道を歩いていると、足跡を残していると、やっぱり色んなことが頭をよぎるよ。

安っぽい言葉を並べるけど。

優しくて、優しくて、

強くて、暖かくて、

お調子者で、怠け者で、

優しくて、優しくて、

逞しくて、繊細で、

自由で、愉快で、

優しくて、やっぱり優しくて、



「......」

『......』

「今日だけはさ、」

『...うん』

「あいつのことばっかり考えてる」

『...うん』

「心の底から言えると思う」

『......』

「大好き、愛してるって」

『...うん』

「もっと。そう言えば良かった」



そう呟いて笑みが零れる。
深夜のコンビニからの帰り道。
欅の木に雪が纏う。

子供みたいに考えだけが普段よりも素直になるのは、この真っ白な雪のせいなのかは分からない。
ただ、現在進行形で遠い遠い氷の上に立っている彼の姿を胸に刻んで、瞼の裏に焼き付けたくてしょうがない。擦り切れるくらいに現像して、永久保存版のテープを貼っておきたい。
誰にも見せたくないけど、世界中の人に知ってもらいたい。そんな確かな時間だったから。


二人で話したあの日のことも。

二人で笑ったあの日のことも。

二人で泣いたあの日のことも。

二人で抱き合ったあの日のことも。

思い出したらきりが無い。



「いつになるかは分からないけど」

『...うん』

「次に会える日が来たらさ」

『...うん』

「なに話そうかな』

『...うん、考えておいたら?』

「話したいことありすぎて、全然まとまらないかも」

『...うん』

「伝えたいことも、一緒にやりたいことも、まだいっぱいあるんだけどな」

『...うん』

「...なんで、バカみたいに小出しにしてたんだろう」

『...結弦』

「...今日が来るって、わかってたのに」



ポケットから左手を出して。
外の空気に触れさせて一気に温度を下げる。凍えるのが嫌で彼女の右手を握る。

(...利用している訳じゃない。)

照れ隠しの裏に忍ばせていた、熱い想いが今頃になって跳ね上がる。
繋いだ手から溢れる熱に眩ませて、ひたすらに君の最後の健闘を祈るよ。
全てを曝け出して、全てを感じて、想いも力も、あのブレードに乗せて欲しい。


悪足掻きしたいけど。

本当は嫌だけど。

嫌で嫌で仕方ないけど。



「......」

『......』

「いつだって、」

『...うん』

「俺はハビの味方だよって」

『...うん』

「そう言って、抱きしめてやりたい」

『...うん』



いつだって僕らは同じリンクに立っていて、同じ風を浴びてきた。同じ視線を浴びて、同じ環境で走ってきた。費やした年月は自分という人間を創った。君という盟友を創った。

言葉を交わす時間が少なくても、いつだって一緒に、胸の中の洞窟に住み着いている魔物と対峙していたんだ。
時には戒め合って、反面教師みたいに高め合って。その相手が君で良かったし、君が良かったって今でも思うよ。ずっと思うよ。


But without your smile
(でも、君が笑ってないと)

Without the moon
(月がないと)

The sun won’t rise
(太陽は昇らない)


だから大丈夫。

泣いても泣かなくても。

どっちでも似合ってるよ。

君の決めた未来を願うから。

成功を祈るし。

間違っても笑ってやるし。

だってそれが俺だから。

俺たちだから。




「同じ気持ちでいてくれるといいな」

『...うん』

「でも、自信無いなぁ」

『...そうなの?』

「うん、絶対俺の方が好きだよ」

『...ふふ、そっか』



歩道橋の上には見慣れてしまった月。
何処へ行っても一つだけ。
そんな風に、唯一無二の存在なんだよ。

今だから言える話し。あのビデオ、本当は涙を堪えながら撮影したんだって言ったら信じてくれる?笑いながら背中を押して、また反時計回りに滑ってくれる?



友に捧ぐ



こっちは雪が降ってるよ。

向こうはどうかな?

そっちはどうかな?

緊張してるかな?

準備は出来てるかな?


Though it’s not today
(今日じゃなくても)

I’ll always be right there you know
(いつだって飛んで行くよ)

If you hear me roar today
(俺が吠えるのが聴こえるなら)

It certainly means that you are not alone
(君は一人じゃないってことだ)

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