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□再会
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西部に位置する巨大な玄関口。
トロント・ピアソン空港に降り立つ。
ドキドキ ドキドキ ドキドキ
ついにきた。この時が。単独で海外に渡っての最初の試練。それはまさに「入国審査」だ。
Arrival(到着)からlmmigratian(入国審査)の表示に従って緊張の面持ちで足を進める。
その次にVisitor(観光客)の列に並んで、パスポートと入国カードを提示する。
「Passport please」
...きた!練習通りの質問!
大丈夫。落ち着いて、冷静に...
『Here you are 』
「What’s the purpose of your visit ?」(何の目的で来ましたか?)
『On vacation l’m here to visit my boyfriend 』
「How many days will your stay be ?」(何日くらい滞在しますか?)
『I’ll be in Canada for week 』
「ok good luck 」
フーッと大きく息を吐きながら胸を撫で下ろした。...よかった!一番心配していた英語での受け答えをクリアした!
まさに練習通りだ。簡単な質問だけで本当に良かった。
一発で通じるか不安だった英語をパス出来たことで一気に安心感に包まれる。日本から遥々、カナダのトロントへ。でも、もう。ここまで来ればあと一息だ。
ターンテーブルに流れてくる自分の荷物を受け取って、真新しいパスポートにスタンプを押されて返却される。
ガラガラと簡単な荷物の詰まったスーツケースを押しながら税関を通って、晴れて到着ロビーへ出る。
ターミナルエリア1。国際線到着口には各国からの留学生、友人や家族を待つであろう多くの人々で賑わっている。
日本では有り得ない膨大な人の数。その国その国の言葉が随時耳に届く。
その光景を目の当たりにして、ジワジワと実感する...
(...ついに来た。自分一人で来れたんだ)
別に子供のおつかいじゃないんだし。たかが一人で海外に来たからって感動する事でも褒められる事でも無いんだけど。
それでもやっぱり実感する。ここが、この土地が、結弦が今まさに生活している場所なんだなって。
練習拠点をトロントへ移して、今年で早七年め。
彼にとっても私にとっても、険しい道のり、順風満帆な時ばかりでは到底なかったこれまでの時間。数え切れないくらい複雑で難解な想いを募らせてきたからこそ、どうしても噛み締めてしまうんだ。私は初めて自分で、この場所に足を着けて歩いているんだって事を。
ピロリン♩
《大丈夫だった?》
ピロリン♩
《今どこ?》
ピロリン♩
《もう着いた?》
ピロリン♩
《迷ってない?》
ピロリン♩
《着いたら電話して!》
次々と連続して送られてくる結弦からのLINE。どうやら私がちゃんと到着したのか随分と心配してくれてるらしい。
そのメッセージのひとつ一つが嬉しくて、なんだか無性に可愛くて、堪らず口角が上がってしまう。
(早く逢いたい。声が聴きたい。姿が見たい。)
行き交う人々を横目に、LINEの通話ボタンを押そうとしたその時...
『!』
不意に二階のエスカレーターから下に見下ろすと。その先に、今まさに私の姿を見つけて、はにかむような笑顔を浮かべて大きく手を振る結弦の姿。
視界に飛び込んで来る。愛しい私の待ち人。
大きなスーツケースを引きながら、無意識的に急いで駆け出す。
(約一年ぶりの再会だ。)
結弦だ。結弦がいる。待ち焦がれていた人物が今自分のすぐ近くにいる。
どうしよう今すぐに抱き締めたい。
抱き着いて、思いっきりギューってしたい。彼の胸に顔を埋めたい。
1メートル、また1メートルと距離が縮まる中、そんな欲求が脳内を駆け巡る。
近づく毎に高まる想い。
ああ。でも駄目だよね、やっぱり。無理だよね。
誰が見てるかわからないのに、いくら海外とは言え空港内は公共の場だ。
結弦が誰か女の人と抱き合っていたら、それを悪い方向の関係者に見られたら、分かる人には分かってしまうだろう。
結弦の負担や重荷にはなりたくない...こっちでの生活の支障になってはいけない...日本でだって気を使いながら続けてきた。
だからやっぱり、ここは冷静に...
「会いたかったーーー!!!」
『むぐっっ!!!』
力強いハグ。熱い抱擁。
え。
いいの!?
周りの目とか。私の心配なんてそんなもの知ったこっちゃ無いと言わんばかりに、力任せにギュウッと抱き締められている。しかも感動の再会のはずが、彼の行動により思わず変な声が出てしまった。
『...ゆ、結弦』
「よく一人で来れたね、大丈夫だった?」
『う、うん。なんとか』
「心配したよー、よかった無事に着いて」
『うん、ありがとう』
「あー。安心した」
『...ゆ、結弦』
「ん?何?」
『...ちょっと、苦しい』
「あ。ごめん」
ほんの少しだけ緩められた背中に回される腕。変わらずに首筋に埋められる顔。そして喋る度にふわりと吹きかかる彼の吐息。息遣い。香り、温もり、
その全てが、懐かしくて。もどかしい時間を一気に埋めてくれる。当たり前のように愛おしい。
「ほんとに、会いたかったよ」
『うん、私も』
「ありがとう、来てくれて」
『結弦、』
「ん?」
『...いいの?こんな所で、抱き合って』
「いいよそんなの」
いつだって冷静に周りを見る事が出来て、秩序を守った行動を取る結弦が。
(堂々と払拭している。)
感情に任せてなりふり構わず振舞っているのか。それとも意識して行動しなくてもいい環境なのか、それは分からないけど。
どうやら自分の気持ちに我慢なんかしなくていいみたい。
だったら簡単だ。腕に力を込めて遠慮なくギュウッと抱き締める。私だってずっとずっと、こうしたかったんだよ。
フライト12時間の距離はやはり大きいものだけど。
でも不思議だな。だって結弦が目の前にいると、そんなものは凄く小さな悩みに思えてきてしまう。
物理的なものに悲しくなって、環境に嘆いたりしながら、また新しく自分たちの居場所を見つけて。
その繰り返しだ、この恋は。私たちは。だってこんなにもお互いがお互いを欲しがっているんだから。
「入国審査心配してたけど、ちゃんと喋れたの?」
『うん、バッチリだったよ。練習通り』
「凄いじゃん、何聞かれたの?」
『何の目的で来ましたか?とか』
「なんて答えたの?」
『恋人に逢いに来ましたって』
「100点だね」
『当然だよ』
ゆっくりとお互いに腕の力を抜いて、名残惜しくも密着させていた身体を離す。
私のスーツケースを横目に、やはり少しだけ照れ臭そうに目を合わせる結弦。まじまじと見つめ返すと新しい発見、髪少し短くなってる...最近切ったのかな、襟足の長さとか、少し変えた?こんな些細な変化も喜びに変わるのは、この距離の特権なのかもしれない。
「荷物それだけ?」
『うん、最小限でいいかなって』
「意外と度胸あるよね」
『だって結弦と一緒にいるんだし、あんまり心配しなくてもいいかなって』
「今日から一週間か」
『そうだよ。一週間だよ』
滞在期間は一週間。
結弦のスケジュールの都合だってあるから、七日間毎日一緒って訳ではもちろん無いけれど。それでも貴重な、大事な大事な二人の時間。それをこれから刻んで行くんだ。
「じゃあ行こっか」
『うん、色々と案内よろしくね』
「了解。まかせて」
自然と左手を差し出されて、それをきゅっと握った瞬間。ぐいっと身体を引き寄せられたと思ったら、
時間に換算して約三秒。触れ合う、唇。
「ごめん」
『え?』
「我慢出来なかった」
『あ、うん』
彼の突発的な行動欲求。
珍しい事も有るものだ。
付き合い始めの初々しいカップルでも無いくせに。やっぱり、距離が無くなった効果は絶大なんだな。うん。
込み上げてくる嬉しさや擽ったさを感じているのは、もちろん私だけでは無くて。きっと何事も無かったかのように隣を歩く彼も同様で。
たった数秒、たった数分一緒にいるだけで、
あっという間に、好きが充満して溢れ出す。
(そういえば、行きたい場所とか決まってる?)
(うん、リサーチしてきたよ)
(どこ?)
(CNタワーとカサロマと)
(うん)
(リプレイ水族館とトロント動物公園と)
(うん)
(ロイヤルオンタリオ博物館とセントローレンスマーケットと)
(...ストップ)
(え)
(多すぎ!)
(えーー!)
Time Let\'s go without hurry because there do a lot