嘘ばっかり

□ハッピーエンド
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日を追うごとに変わる日常。
世界がこんなことになるなんて、一体誰が予想しただろう?

誰のせいでもない。
誰も悪くない。
無情にも蝕まれていく時間の中で。
変わらないで有り続けたいと思うことが、貴方との時間以外にも沢山あったんだね。

当たり前過ぎて気付かなかった。
きっと皆んな、同じことを思ってる。
お願いだから、これ以上、犠牲者が増えませんようにと。







幕が下りれば、 お互いに離れ離れ。
皮肉だな、こんな時だけあっという間に過ぎ去るなんて。憎いよ、もどかしいよ。

離れていることが、こんなにも憎いと思ったことがあったかな。
寂しいとか辛いとか、それとはまた別の感情で。

今だから、尚更。

「またね」があれば、どんなお別れもましになると言っていたけど。
いつ言えなくなるだろう?考えちゃダメなのは分かってる。だってそれは、いつだとしても虚しくなるからだ。



『結弦』

「ん?」

『逢いたいな』

「うん」

『不安だよ』

「うん、そうだな」

『このまま、こんな毎日が永遠に続くんじゃないかって』

「確かに、終わりを想像するのは今は少し酷かもな」 

『電話越しじゃ、分かんない』

「分かんない?」

『結弦の顔も、香りも、』

「うん」

『そういうの、全部遠いよ』

「泣いてない?平気?」

『...泣いて、ないけど、泣きそう』



遠くに繋がる彼の声。
端末なんかじゃ埋まらない。
大事な時間がどんどん消えて行くような感覚。
やるせない。
巻き戻したい。
消し去りたい。
幸せだった時間の中に、
ほんの数ヶ月前の出来事が網羅する。

記憶の中にほんの少しだけ、貴方との距離の中で溶け合った絵具。
刹那の味が甘く苦く混ざり合う。



「大丈夫だよ」

『大丈夫かな』

「こういう時に使う言葉だから」

『...都合いいなぁ』

「大丈夫」

『...大丈夫?』

「大丈夫、信じろ」

『......うん』



力強く言い放つ。
張りの無い声で答える。

今日が終わるのが悲しい時は、朝日が二度と出て来ないようにと願ってしまう。
時計を眺める。チクタクチクタクと秒針が刻む慰めの音。

分かっているけど。
まだ話し足りないよ。
もっと語り合いたいよ。


気が済むまで。
ずっとずっと。
この「不安な時間」が終わるまで。



『...結弦』

「ん?」



限りがあるからこそ全ては美しい。
そんな正論。臆病な私にとっては、今はとてもじゃないけど、重過ぎて聞けたものじゃない。

言霊の通り。
信じたいよ。
大丈夫だって。
明けない夜はないって。
月日を重ねる度に少しずつ出来て行った。
前にも二人で出した答えだ。


心の隙間を埋められるのは。





まとわりついて離れないの。
指に残る触れた感触と温度。
青くて熱い歓声の耳鳴り。
紡がれた他愛も無い愛しい言葉。



『いなくならないで』

「......うん」

『約束して?』

「......うん」



君と作り上げた思い出。
この命を絶やさないように。
私は何度も「またね」を届けるから。
嘆きの唄声に少しだけ濡れても。
地球最後の日が来ても。


世界が色を取り戻す、その日まで。



「次に逢ったら、何しようか?」

『何、してくれる?』

「何でもいいよ、何がいい?」

『好きって言ってくれる?』

「そんなの今だって言えるよ、好きだよ」

『うん、私も好き』

「あとは?」

『頭、よしよしってして?』

「うん、いいよ」

『手、握ってくれる?』

「うん、いいよ」

『ギュって、抱き締めてくれる?』

「うん、いいよ」

『また、』

「うん」

『...また、、、』

「...うん、、、」

『..........結弦が、滑ってるの、見せてくれる?』

「..........当たり前」



どれだけの人が願っていることだろう。
今日が終わるのがこんなにも悲しいと。

何気ない毎日に祈りを捧げて過ごす日々。

ハッピーエンドで終わらせて。
貴方の前に立てるその日が来るまで。

願いが通じるまで。

願いが叶うまで。


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