嘘ばっかり

□lovin’
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君を彩る世界は形様々。

好きなように過ごして。

泣いて。

笑って。

心満たして。

めくるめく時代の中に。

二人で小さな種を植えてみる。

この些細なばら撒きが、どうか続くといいな。

君に降り注ぐ

愛しいカケラの全て。



I need you



「......」

『......』

「......」

『......』




....ね、....寝てる。


やけに静かだなと思って振り返って見たら。
俺の真後ろ、使い慣れたソファで寝息も立てずに彼女がスヤスヤと寝ている。

時刻はPM 15:00

約一時間前から二人で見ていた長編映画はもうすぐクライマックスに差しかかるという所。
どうやらラストを迎える前に、不覚にも睡魔が襲って来たらしい。

無造作に横を向いて、頭の下にクッションを敷いて枕代わりになっている。



「...映画終わっちゃうぞー」

『......』

「... おーい」

『......』



反応は無いと分かっていてもとりあえず一回声を掛けておいた。無論、俺の問い掛けにはピクリとも動かない。


(...最近ずっと残業続きだって言ってたもんな。)


頬にかかる髪がさらりと揺れる。

当たり前だが、脱力した身体。

随分と疲れてるみたいだ。

一緒にいる時に俺が寝落ちするのはよく有るパターンだけど、彼女の方が寝てしまうというのは案外貴重な物で。そうなってしまったということははそれ相応の理由があるんだろうと安易に考え付く。



「風邪引くぞ」



なんとなく小さな声で呟いて。
テレビの音量を下げてから再度振り返る。

ソファの背もたれに引っ掛けてあったノルディック柄のブランケットを手に取りふわりと身体全体を覆うように掛けてやる。

瞬時に柔軟剤の香りがエアコンの暖房越しに伝わって優しく鼻腔に広がって行く。
柔らかい毛布生地のブランケットは彼女のお気に入りアイテムの一つだ。



「......」

『......』



(...これでよし、と...。)


首もと近くまでブランケットを上げて整えてやって、彼女の頭をそっと撫でる。

柔らかい、暖かい髪質が、丸い頭を往復する度に手のひらに浸透して行く。

少しだけモゾモゾと顔を動かしながら目をしかめる彼女の姿に思わず笑みが溢れてしまう。



「......」

『......』



だけど
数秒後、直ぐに気持ち良さげな表情に戻る。



じーーーーーっと、、、


つい見てしまう。


寝顔。


彼女の横側、ソファの空いてるスペースに片肘を着いてまじまじと見つめてみる。

昼寝...?それとも、うたた寝...?

いや、うたた寝は違うな...ガチ寝...?

夜の寝顔ともまた違う。
堪えきれずに睡魔に負けたような、そんな緩みきった表情にジワリと込み上げる淡い感情。


いつもより下がり気味の眉。

閉じられた瞼に長いまつ毛。

浮かび上がる二重のラインに薄く色付いたアイシャドー。

ほんのりと赤く染まった頬。

そして、

自然と....半開きの口。



「......」

『......』



(...............ヤバい。)


可愛すぎるだろ、、、


無防備な寝顔に不覚にもときめいている自分。

今更こんなことで心拍数が上がるとか、なんか付き合い始めの頃に戻ったような擽ったさというか何というか。いや、自分でもおかしいとは思うけど、いや、別に何もおかしなことでは無いけど。

全く持って緊張感が無い。
この歳になっても自律神経のコントロールは出来ないらしい。まぁ当たり前だが...

この無防備に安心しきっている寝顔。
実に奥が深い。
本人が「可愛いかどうかを意識してない顔」
それを「可愛い」と思うことって、女性にしてみたら案外皮肉なことかもしれない。

こっちにとってはご褒美みたいなものだけど。
緩みきった口元を眺めて悪いことを考えてしまうのは男の本能そのもの。

それもこれも、全部彼女が悪い。

いや、誰も悪くない。

いや、だから、、、




「......可愛すぎるんだって」




ぼそりとそう呟いて。
ゆっくりと顔を近づけて。



窓の外は冬の景色

カタチ様々

くだらない喧嘩をしたり

真剣に罵りあったり

腹抱えて笑いあったり

決して離れることの無い繋がりと信じて



そっと、唇を重ねる。

柔らかい感触はいつも通り。

遮るものは何も無い。

半開きの形が妙に心地よくて、当初の思考よりも、ついつい長く当てがってしまう。

彼女の呼吸が弱々しく触れる。



「......」

『......』



一度離れて、再度顔を見つめて見るけど。

(....うん。起きない。)

継続中のあどけない寝顔に理性のリミッターが外れそうになっているのを感じる。

いや、別に外れたっていいじゃないか。
外したっていいじゃないか。

何も悪いことでは無い。
疲れているところ申し訳無いが、少しだけ彼女の安眠を妨害するだけだ。

もう一度、今度はより深く。

少しだけ力強く、彼女の唇を挟み込むように味わってみる。

温もりに一気に引き込まれて行く

(...あーあ、本当にヤバい。止まらない。)


単純にシンプルに、





そんな中で溢れ出して止まない。
結局はただ一人の人間。

無情な程に過ぎて行く時間の中で。
花を育てて行く過程が愛おしくて堪らない。

どうかどうか守ってみたい。

君に降り注ぐ日々の飛礫。

君に降り注ぐ愛しいカケラの全て。



「......」

『......っ』

「!」



どうやら息が苦しくなって来たらしい。

気持ち良さげな寝顔から一変して彼女が顔をしかめている。

だけど、もう時間切れ。

今更遅いよ。

(...もっともっと、重ねてやりたい。)

止めることなくキスを継続する。

寝惚けながらも僅かに抵抗している彼女をからかうように口を塞ぐ。

バタバタと空をきる彼女の右手を左手でギュッと握って押さえ付けて。

深く深く、息を遮るようなキスをする。



『...〜っ!!』

「...ん、」

『......................っ、ぷはッッッ!!!』



堪らずに酸素を求める彼女。
息を切らせた苦痛と驚きの表情。

まるで50mプールでも泳いだ後の様。

いいね、その顔も。不意打ちって感じで。

いや、その前にごめんだけどさ。



「......」

『......?』

「...起きた?」

『....もう、、、.......何?』



はぁはぁと少しだけ肩を動かして呼吸をしている彼女の目が俺を捉える。

少しだけまどろんだ瞳からは微かな疲労の色が滲み出ていて、それがまた妙な色っぽさを醸し出していて...。本当にもうこれ以上はやめて欲しいのに。



「......」

『...結弦』

「...ん?」

『....夢、見てた』

「...どんな夢?」

『...んー、、、なんか、雲の上に乗って、ふわふわ浮かんでる夢』

「...ふーん」

『...すごく気持ち良かったんだけど、、、』

「...うん」

『...途中から、酸素が薄くなった』

「...ははは、ごめん」



上目遣いの彼女にもう一度覆い被さって。
お互いに意識の有る状態で目と目を合わせれば
やることは一つだけ。

情け無いけど、頼りないけど、
若気の至りなんかでは決して無い。

いてくれて良かった。

挫けながらも強くなれるように手探りで。
大人になる為の毎日に必死なんだ。

紅く染まった頬をそっと撫でながら慈愛を込める。


 

「じゃあ、今度はちゃんと息してな」









君に降り注ぐ愛しいカケラの全て。

人なんて、男なんて所詮この程度。

気難しいことは必要無い。

全てを忘れることは簡単なんかじゃないけど

今日はせっかくのご褒美を貰ったから。

答えを求めることは置いといてさ。

どんな時も奏でていたい。

当たり前に触れてみたい。

君と過ごす、歩む時代の中で花を育てよう。

どうか枯れないように。

注ぎ続けよう、くだらない想いの全て。

君に降らせる、この僕の全て。


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