嘘ばっかり
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(注意!!!)このお話しはシリーズのヒロインちゃんが年末年始にカナダへ渡っている設定になっております。またクリケット仲間としてオリキャラの女の子が二人登場します。その彼女たち視点のお話しになっております。オリキャラ・モブ視点が苦手な方はご注意下さい。
ここはトロント郊外にある「アーリーバードカフェ」。美味しい厳選されたコーヒーをリーズナブルな価格で楽しめるだけで無く、パソコンや読書、勉強も出来るレンガ造りのモダンな雰囲気が魅力の若者に人気のカフェ。
クリケットクラブからの帰り道。通りに面しているこのお店のコーヒーと穏やかな空間は、ハードな練習で疲れ切った身体と心を癒してくれる、私たちにとって大切な癒しの場所なのだ。
そんなお気に入りの場所で。
まさかの偶然が重なった。
ひょんなことから始まった。
彼と彼女の考察
皆さんこんにちは。はじめまして。シニア二年目、クリケット一年目の伊藤詩織と佐藤杏奈です。
年末年始の休みで見事にだらけてしまった身体に喝を入れるように、今年の初練習、初滑りを終えた昼下がりの午後14:00。
冒頭で述べた、私たち二人の行きつけのカフェの席はほぼ客で埋まっている。年始だけあってワイワイガヤガヤと少々賑やかだ。
本当は通りに面した馴染みの席でお茶したかったのだけど。生憎今日は空いていなかったので一つ後ろのテーブル席に座ることにした。隣には背の高い観葉植物が置いてあって、両サイドのテーブルといい具合の仕切りになっている。
「疲れたね、初練習」
「ねー、びっくりするくらい身体重かった」
「しばらくは基礎練からだね」
「正直怖くてまだ体重計乗ってない」
「えー、やばいじゃん、それ」
「知られたらジーニャさんに怒られそう」
「やめてよ笑えない!」
「またハードな日々が始まるね」
「だね、頑張らないと」
「そうだね」
「今年もよろしくね、杏奈」
「うん、こちらこそ」
今シーズンも新たに始まる。
日本を離れて海外で暮らすのはまだ少し慣れないけど、それでも夢と目標を持って仲間たちと切磋琢磨する日々は嫌いじゃない。幸運にも私には杏奈という心強い同期がチームメイトにいるし、そして何より、所属するクリケットクラブには世界が誇るべき金メダリスト「羽生結弦」くんもいる。
そんな中々手に入らない恵まれた環境で、新年からトレーニングを開始出来ていることに感謝しなければいけない。
そしてこんな風に今年も他愛もない話しをしながら、友人と一緒に甘い甘いキャラメルマキアートを飲める幸せも噛み締めないといけない。
「そういえばさ、詩織」
「ん?」
「結弦先輩、いつこっちに顔出すのかな?」
「あー...なんか、3日から練習再開させるって言ってたような気がする」
「え、じゃあ明日?」
「うん、年末年始は日本に帰国しないって聞いたよ」
「何?直接喋ったの?」
「違うし、ジュナンと先輩がそんな感じのことを喋ってるのを聞いたの」
「そうなんだ、じゃあ明日には会えるんだね、なんか俄然やる気出て来た」
「単純だね、そして不純な同期ー!」
「何さ、お互い様でしょ」
「私たちだけじゃなくてさ、皆んなそうよ」
「やっぱ締まるもんね、色々と」
そう、情報によると我らが結弦先輩は明日クリケットクラブに顔を出す予定。
毎年年末年始は地元の仙台に帰ってるらしいんだけど、今年は帰国せずにトロントで年越しをするらしいと、偶然男子チームメイトと話しているのを小耳に挟んだのだ。決して盗み聞きしたのでは無い。
ちなみに、いくら日本同士で同じリンクで練習を積んでいるといっても、流石にシニア二年目でタイトルも何も無い新参者の私たちは、挨拶以外では簡単に彼に話しかけたりは出来ない。
というか、恐れ多くて近付けない...。
何から何までかっこよすぎて、尚且つストイックすぎて、同じ空間、同じリンクに立っているだけでもう十分なくらいの存在なのだ。
ちなみに以前に練習時間が被った時なんか、向こうから「おはよう」と声を掛けてくれたりして、もうその一言で辛い練習もコーチのスパルタも乗り越えられるくらいの威力があったりなかったり...。
「結弦先輩、四大陸出るんだもんね」
「すごいよねー、成長の場にしたいって」
「見習わないとね、私たちも」
「そうだね、頑張って練習して今年はアンダーローテ減らさないと」
「私もエッジエラー直さないと、これから闘っていけないよ」
温かい甘いキャラメルの糖分が喉の渇きをじんわり癒してくれる。ガヤガヤと賑わうカフェの一角でのんびりと今年の抱負を語り合っていた私たち二人。
そんな至福の時だった。
ありふれた日常に突如として訪れた(大袈裟かもしれない)衝撃の光景を。
私たちは目の当たりにしてしまった。
私たち二人が座るテーブル席の二つ向こうの窓際席に歩いて来る二人の男女。
「ねえ杏奈、あれって」
「えっ!!」
「......嘘でしょ」
「ちょっ!...ま」
間違い無い。
距離はあるから遠巻きにしか見えないけど、私たちが見間違える訳が無いのだ。
最後にあった時よりも少し伸びた黒髪を鬱陶しそうに指で分けながら席に着こうとしている。
すらっとした細身の端正な横顔の日本人男性。
「ちょ!あれって」
「しっ!静かに」
「結弦せんぱ...!」
「声でかいって!」
そう、今まさに話題に上がっていた私たちの永遠の憧れの的。羽生結弦先輩がいるのだ。
そして、驚いているのはそれだけじゃない。
ここはクリケットクラブからも徒歩十分ほどのリーズナブルなカフェなんだから、彼が来店すること事態は何ら不思議では無い。じゃあ何故そんなに驚愕しているのかって...
(それは........)
もちろん、、、
『寒かったねー、早く何かあったかいもの飲みたいな』
「あー、まさか正月からこんなに歩くと思わなかった」
『おかげでいっぱいお土産買えたよ、ありがとう付き合ってくれて』
「どういたしまして」
話しながらも結弦先輩が脱いだアウターを自然と受け取って軽く畳み隣のイスに軽く掛ける一人の日本人女性。その動作、ほんの数秒。
それが終わってから自分のコートを脱ぎ彼と向かうように席に着く。実にナチュラルな一連の動作に思わず釘付けになってしまった。
目の前の杏奈も目を見開いて口をあんぐり。
(...それもそのはず。)
女と....
女の人といる....
結弦先輩が...
女の人といる......!!!!
オーマイガー!!
これは、、、
世界中の女子たちの注目案件と言っても過言では無い。