*Short*

□Happy Halloween!
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「トリックオアトリート」
「いや、いきなり家入られてんなこと言われてもだな」
時刻は深夜0時。先程、魔女の仮装をして突然家に押し掛けてきたコウカは、俺が出してきた座布団の上にちょこんと座っている。
こいつは昔から甘いものが好きだったな〜、などと感慨に耽っている間にも、彼女の要求は止まない。
「お菓子。ちょうだい。作って。今すぐ。じゃないと悪戯する」
───家に。
ぼそりと呟いた言葉を聞き返すより先に、俺の目は彼女の手に握られたモンスターボールを捉えてしまった。中のポケモンはゴウカザル、すなわち。
「待て待て待て待て!!待って!!」
一体どこでそんな脅しを覚えたんだ。
必死になって制止し、この状況を打開する策を練る。
「…つーかそもそも、お前もうガキって歳じゃねえだろ!よって俺にはお菓子を作る義務も、イタズラされる道理もありません!!」
俺が捲し立てるのをコウカは驚きの表情を浮かべて聞いていたが、やがて目を閉じ俯いた。
「………分かった」
おーおー、そうか分かってくれたか。それじゃあ今日のところは引き上げてくれ。もう夜も遅いし、俺は明日だってリーグの仕事が……
「ゴウカザル」
チャッ、という音と共にボールを構えるコウカ。うそだろ勘弁してくれ。
「うおおお待て分かった!分かったから!!あーくそ、やりゃいいんだろ!?」
勢いで折れてしまった俺に、コウカはそれでいい、とばかりに頷いた。こうなっては最早どうしようもない。認めよう。俺の負けだ。
こうして敗者となった俺は、深い溜息を吐いてキッチンへと歩を進めるのであった。

できたてのスコーンを満足げに頬張るコウカを見て、ハロウィンもあながち悪いもんじゃないな、と思ってしまったのはここだけの秘密だ。
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