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□すきなのに。
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彼と楽しげに話している彼女は新しく会社に入った、私より若くてかわいくて、そしてなにより彼のことが好きです!というような雰囲気の子
彼も満更でもなさそうに私には見せない顔で笑っている
その顔を見つめている私には気づいてくれないんですね、それもそうか、と自分で納得して自嘲気味に笑う
彼等が楽しそうに話している給湯室を、ばれないように、緊張しながらいつものように開いて、彼等に今気づきましたという態度で、あっごめんなさい、と急いで閉じる
彼が焦ったように、まって、と私を止めた。
彼の顔は、勿論だけど笑顔じゃなくて、私にはもうあの笑顔は向けられないんだなと悲しい気持ちになりながら、大丈夫だよ、とわらった
まって、といっただけで、私がいなくなっても追いかけてきてくれないから、もう、だめだなと思った
次の日におそろいの歯ブラシも、コップも皿も、なにもかもを持って、彼の部屋に私の痕跡が一つも残らないように家を出た
涙はでなかった
ただ、なんだか、ぽっかり穴が空いたような気がする
その日は土砂降りの雨で、こんなことドラマでしかないと思ってた
びしょ濡れのまま、きっくんの家へ向かう
ピンポン、と可愛らしい音を響かせるインターホン
はーい、なんて安心する声できっくんが出てきて、そして、私の姿をみると、はい!?なんて面白い声でびっくりするから、つい笑ってしまった
「ごめん、ちょっとだけ泊まらせてほしいな」
「全然いいけどさあ...?」
男性の部屋にしては整理整頓されているのではないかと思うきっくんの部屋はなんだかいい香りがする、これ女子力負けてるな
シャワーを借りてそのままきっくんの服で出ていくと
「危機感!!」
叫ばれたのでおどろき。
ドライヤーで乾かすのがめんどくさいのでそのままタオルでがしがし拭いていると、キャー!!なんてきっくんがまた叫んで、高そうなドライヤーで私の髪を優しく乾かしてくれた
いつもの声できっくんが言う
「なんかさ、お前さあ、色々我慢しすぎだからさ、なんか、うーん、すぐ言えよ」
優しいから、つい、鼻につーんときて、ぼろぼろぼろぼろ。泣いてしまった