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□重そうですね ヒラ
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重いぞ
ただひたすら重いぞ

ただいま郵便屋さんとなっております名無しさんでございます

最初は保健の先生からこれ持ってって、と少しの紙束を渡されただけだったのだが、次々と上に乗せられていく紙束とダンボールとで目の前が見えないくらいになってしまった

運の悪いことに仲の良い友人はみんな帰ってしまっている
資料室に行ったり、印刷室へ行ったり、しかしまたそこで増えることもある

「くそ〜...途中で断ればよかった...」

小さな言葉で呟いたが、断れないのが私なのだ。


前が少し見えるくらいの量に減った時に、音楽室に楽譜を届けに行った
音楽室は校舎の3階にあり、ぶつかることが怖いのだが...まあ、大丈夫だろう

てくてく、と歩いていくと、女の子のケラケラと笑う声が聞こえた
見ると、階段に座り込んで談笑している
別に私に向けられたイタズラでもなんでもないが、ただいま少々イライラしている私にとって、それは十分に怒れるところであった

「あの、そこ通りたいんだけど」
「...ん?」
「わ、荷物やば」
「重いから、そこ通らせてくれない?」
「あ、うん、ごめんね〜」
「わ〜郵便屋さんおつかれじゃん?」
「手伝おうか?」

なんと、ただの私の偏見であった、なぜ談笑しているだけで私は怒ってしまったのだろう、分かっている、ただの八つ当たりだ
申し訳ないのでその申し出は有難いが断らせていただいた...


まあそこを登ればすぐそこだから、この鬼のような楽譜ダンボールもなくなるだろう、なんて前が少ししか見えていないのに、油断していたのが悪かった

階段を一歩踏み外して、後ろにぐらり、と傾くのがわかった

「あっ、うそ、やば」

とっさに動いた口より早く手を動かせばよかった、と気づいた時には後の祭り

ダンボールが私の手から離れていくのがわかる、バランスを崩した私の頭か重量に従って落ちていく、とっさに伸ばそうとした腕は、ダンボールを支えるために使っていた筋肉が即座に動かず、伸ばすことすらできなかった
こりゃ本格的にやばいな、と思った時に、わあ、と男か女かわからない声がした

そのつぎに、痛みを感じる予定であった、頭に、ぽふん、とした柔らかさを感じた

体を支えられて、ギリギリで落ちることのなかった私を助けてくれた人は、あまり喋ったことがないが、隣の隣の席であるヒラくんであった

「大丈夫?」

男の子にしては、高めの声、本人はそれが嫌だと言っていたが、正直に言って私はそれが好きだ
下から見るヒラくんは私にとって珍しいことだ
女の子のように見えていたヒラくんが、不思議ととてもかっこよく見える

は、と元に戻って

「ごめんなさい!ありがとう!」

それじゃ!と床に散らばった楽譜や、資料を拾って、逃げるように走り出した

のだが、

「まだそんなに荷物あるじゃん?僕も持つよ〜」
「いや、いやいや、申し訳ないから...」
「大丈夫大丈夫、やること無くて暇だったし、付き合わせてよ」

それに今の見てじゃあさよなら、とかできないよ、と言われ、その言葉に言い返せず、半分こさせてもらった

「それにしても荷物多かったね〜」
「う〜ん、最初はそうでもなかったんだけど...だんだん増えてきちゃって...」
「名無しさんさんいつも先生とかに配布物とか任せられてるもんね〜」
「断れない性分が...」

そう喋っていると、音楽室につき、なぜか軽音楽部のラーメンの人(ラーメンの人というのを知っている)に楽譜を渡して、そしてやっと荷物が無くなった


「本当にありがとうヒラくん」
「ううん、いいんだよ」
「今度、何か奢らせて」
「えっ...う〜んと...」
「結構なんでもいいよ、すんごいたっかいのはちょっとあれだけど...」
「それじゃあさ、今度一緒に行けれるなら行きたいところがあるんだけど」

で、デートのお誘い...!?
きっとカフェや、甘いケーキがある所に男の子ひとりで行くのが気恥ずかしいとか、そういうことだろう、デートとは違うことはわかっているのだが、こういったことに慣れていない私はドキドキしてしまう、平静を装って

「いっ、いいよ、その時になったらラインして」
「わぁっ、ほんと?ありがとう〜」

花が咲いたように笑うヒラくんを見て、また一つ胸がなった




ラインの友達のところに一つ増えた枠を見て、言いようのない感覚が湧き上がってきた


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