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□風邪ひきました フジ
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仕事中に倒れてしまい、上司に家まで送ってもらうという失態を犯してしまった

体調管理の出来ていなかった自己嫌悪に陥りながら、だるさで体も動かず、ご飯は食べないでいいや、とベッドへ潜り込んだ

倒れたのは、昼頃でこれから忙しくなる、という時に早退してしまった自分、同僚達に申し訳なさは感じつつも、このごろ押し付けられるような仕事が多かったので、少しくらいやってくれたっていいのでは、という気持ちもあった

この年になっても、風邪をひいて1人、というのは寂しいものなんだなぁ、と思っていると、不意に玄関からガチャガチャ、と鍵を開ける音が聞こえた

合鍵を持っている知り合いなんて、そんなにいないし、居たとしても今は仕事中のはずである...


まさかとは思うが、泥棒であろうか...?

どうしよう、と考えている間にも、すたすた、と泥棒にしては気を使っていない足音が聞こえる
そのことに知り合いかな?と安堵しつつも、少しの恐怖が続いている

そして、寝室のドアノブが回された時、その向こうにいたのは

「わぁ!なんで起きてんの?!」

フジであった

「え、いや、むしろなんで家きてるの?」

「倒れたって聞いたから...風邪薬とかゼリー買ってきたよ〜」

できる彼氏である...しかし仕事中なのではなかったのか、というか確か友達とゲーム実況をとる、なんて言ってた気がするが...
そのことについても聞いてみると、

「いや〜彼女が倒れたんだよね〜っていってら、おつかれはよかえれって...」
「よかったの?」
「うん、特に今絶対録らなきゃ!って言うのがなかったから...」

あはは、と笑って返すフジ

優しそうな声で笑われて、寂しかった心が満たされていくのがわかる

「ありがとう...」
「なんか今日おとなしいべ?」
「風邪だからね!?」

そうだった!あはは、とまた笑う

笑い上戸かな?そうだったわ

「というか、寝なよ、寝なさい」
「ふぁい」
「ゼリー食べる?薬もあるよ、そのまま食べれなかったらオブラートも買ってきたから、筒んで...」

てきぱきと、風邪に対する処置をしてくれる、さすが万年風邪気味



「なんか、ご飯食べたら眠くなってきた」

それに1人じゃないし


「え〜寝るの〜?」
「えっ...だめなの?」
「いいけど」
「なんなの...」

じゃあ俺このくらいで、と立ち上がろうとするフジの手を、とっさに掴む

「...ん?」
「...はれ?」

なんで掴んだんだろう

「ど、どうなさいました名無しさんさま...?」
「あ、えと、あれ...?」

うまく言葉に出来ないけど、なんとなく行って欲しくないような、でも段々と手の力が抜けていく

する、とフジの腕から私の手が離れる

「.....」
「......」

沈黙する私たち、その沈黙を破ったのはフジのため息であった

「はぁ...寂しいなら寂しいっていえばいいべや?」
「だ、誰も言ってないっすよそんなこと...」
「じゃあ帰っていい?」
「....」
「ほら〜!」

寂しいなら寂しい、でも、言った所で何をしてくれるというのか...ぎもんである

「寂しいって言ったら、何してくれるの?」
「名無しさんが眠るまで手を繋いであげましょう」

なんと魅力的な....


「..じゃあ、お願いします」
「はい、どうぞ」


フジの筋張った手を握って、暖かさにいつもよりも強い眠気に襲われながら、起きた時に、出来ればフジにそばにいて欲しいな、と思った



口に出していたとは思わなかったけど
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