・夢の先には…
□5 初めての友人
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控えめにノックの音がすると、衣更が入ってきた。衣更は藤崎と目が合うと、にかっと人のよい笑みを浮かべた。
「目が覚めたんだな。気分はどうだ?俺同じクラスの衣更真緒。よろしくな。」
「あ、えっと…僕は、…藤崎蒼生です。助けてくださってありがとうございました。」
「そんな固くなるなよ。クラスメイトだしさ。あ、ところで腹減ってない?俺購買で少し買ってきたんで副会長も一緒にどうですか?」
「気が利くな。ありがたく頂こう。」
テーブルに移動するため藤崎を立たせてみると、あれほどの補正をしなければいけない理由が分かった。線が細いのはともかく、立ち居振る舞いや背格好がどこからどう見ても女なのだ。頑張っても中性的に見えると言うのが限界だろう。
「そういえば、俺藤崎に謝らないといけないことがあるんだ。その、ここに運ばれてきた後も苦しそうだったから、補正してた物取ったとき藤崎が女だって知っちゃってさ…。ほんとごめん。」
「え…あ!」
藤崎は自分の体を見てようやく補正が外されていると気づいたようだ。
「それについては俺も同罪だ。寧ろ衣更は手伝っただけだ。あの状況では外した方が良いと俺が判断した。というかお前は外されたことに今頃気づいたのか。まったく無防備というか無自覚と言うか…そもそもだな!」
「副会長!ま、まずは昼飯にしませんか!話しながらでも食べないと、午後の授業に遅れます。」
衣更の言うことは最もだったので、とりあえず昼食にすることにした。持ってこられる物と言うことでおにぎりやサンドイッチだった。藤崎は控えめに野菜サンドを手に取ったが、まじまじとパッケージを見つめたあと、こちらをじいっと見つめてくる。
「まさかとは思うが、食べたことがないとは言うまいな。」
「え、藤崎サンドイッチ食べたことないのか?」
「あ、ありますよ!た、ただ…このように包装されている物は初めて見ました。」
「さっきのスポドリといい、サンドイッチといい…お前はいったいどんないいお育ちをしてきたんだ。」
それから俺と衣更で食べ方を教えた。どこから開けてどのように食べるのか、一から十まで懇切丁寧に説明尽くした。そのままかじることには抵抗があったのか、一口大にちぎりながら丁寧に食べていった。ようやく1つ食べ終わる頃には、俺たちはすっかり昼食を平らげてしまっていた。だが恐ろしいことに藤崎はそのたった1つきりで「ごちそうさまでした」と告げたのだ。
「遠慮すんなよ。ってかちゃんと食べないとまた倒れるぞ。サンドイッチ1つとか絶対体が持たないって。もしかして、まだ具合が悪かったりするのか。」
「い、いや、体は大丈夫。どっちかって言うと、さっき取った水分でお腹がいっぱいで。」
「食べろ藤崎。体は資本だ。それとも腹が空くまで俺が気の遠くなるような話しを聞かせてやろうか。せっかくだ、内容はアイドルたるものの運動と食事についてだな。」
俺のせっかくの提案など聞こえなかったかのように、藤崎は渋々と二つ目のサンドイッチに手を伸ばす。まぁ理由は何でも良い。話しは今度たっぷり聞かせることとして、ひとまずこいつがきちんと物を食べるならそれで良いとしよう。
「藤崎って、綺麗に食べるよな。」
「ん、そうか?え、ええと…そんなことないと思う、よ。」
「なぁ、さっきから思ってたんだけど、なんかぎこちないよな。もう正体分かってるんだし、素のままでもいいんだぞ?」
「あー、うん、でも、俺ちゃんと男になりたいんだ。」
「そういえばなぜそんなに男になることにこだわる。英智にも女子生徒として生活することも提案されただろう。」
藤崎は一言「う〜ん」とつぶやくと、一人決心したように頷きカーテンの向こうに消えた。戻ってくるとここに運ばれてきた時のように完全な男装をしていた。
「話すより、見た方が早いと思うので、ちょっと付いてきてください。」
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