・紅郎との日々

□最大限、最大級に
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珍しく酔って帰ってきたと思ったら、靴も脱がないうちにでれでれとくっついてくる。

「好きなんだよ、嬢ちゃん。たまらなくな。ついつい甘やかしたくなっちまう。」

「俺の大事な姫さん。今日も可愛いな。」

「嬢ちゃん、俺の、大事な嬢ちゃん。ただいまのキスがしてぇ。」

ここまで送ってくれた蓮巳さんは、紅郎の豹変ぶりを見てからというもの、笑いを堪えるのに必死なようで肩が小刻みに震えている。

「笑い上戸や泣き上戸は聞いたことがあるが…一体全体どうしたらこうなるんだ。まったく度し難い。今まで飲み会があっても人格が変わるようなことはなかったんだがな。というか内輪で飲んでも酔いつぶれる事なんて滅多にないのだが。」

多分この人、いつもの冷静さを取り戻そうと必死なんだろう。しかし紅郎は聞いてないのか聞こえてないのか、お構いなくべたべたと寄りかかってくる。

「は、ばずみざん…ぜ、ぜめてリビングまで手伝ってぐだざい…」

重い。紅郎は全体重を遠慮なく掛けてくるせいで私は潰れそうだ。

蓮巳さんは「やれやれ…」と言いつつも、一言断って人の家に上がるあたり礼儀正しい。二人でなんとかリビングに運び、水を飲ませる。ついでに蓮巳さんには熱い緑茶を出す。

「あまり立ち入ったことを聞くのも無粋だろうが、何かあったのか。俺で良ければ話くらい聞かないこともないが。」

紅郎は運ばれて素直に水をかっくらったまでは良かったものの、再び私に抱きついて離れようとしない。いつもの口癖と共に発せられる言葉の数々は本当に本人が言ってるのかと疑いたくなるようなものばかりだ。

「いえ、特に変わった事は…なんですかね、私が知りたいですよ。むしろ。なにかあったんですか?」

どうしたものかと盛大にため息をつく。そのタイミングが蓮巳さんとぴったり合ったことで、かえって気が抜け、二人とも自然と笑みがこぼれる。

「とりあえず…酔った人間に何を言っても仕方がない。明日鬼龍には灸を据えてやるか。」

そう言って蓮巳さんはポケットからスマホを取り出すと動画を撮り始める。もちろん紅郎は全く気づいておらず、ファンが見たらいろんな意味で阿鼻叫喚になるであろうほど緩みきった顔で私に抱きつき、時にはキスまでしながら愛の言葉を贈ってくる。




翌朝。

もしかしたら強烈な二日酔いとかになるかも…なんて心配は全くいらなかったようで、紅郎はいつも通りしゃっきり起きてきた。

しかしスマホを見たとたん、顔から血の気が引いていった。どうやら蓮巳さんは昨日のうちに撮影した動画を紅郎のスマホに送っていたようだ。ちらりと見えた画面には、ご丁寧に「飲み過ぎ注意」という習字まで添えてあった。

呆然と立ち尽くす紅郎の手元からは、昨日の甘言が惜しげもなく流れる。

「…あの、覚えてる?それ、昨日の…帰ってきたときの。」

おそるおそる訪ねるが、紅郎はうつむいたまま力なく首を横に振る。

「すまねぇ嬢ちゃん…。神崎に刀借りてくる…。それで詫びるから許せ。」

「待って!大丈夫だから!何もなかったから!むしろたまにこうして欲しいくらいだから!お願いだから早まらないで〜!」


題:最大限、最大級に


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