・紅郎との日々

□食うと食われると
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「めずらしいな。何食ってんだ?」

太るから、という理由でなるべく間食しないようにしているのだが、たまたま会社で新しく発売されるお菓子のサンプルをもらった。せっかくもらったものだし、と持ち帰り残業をしながら食べていた所をのぞき込まれる。

「紅郎もいる?」

口元に差し出すが、素直にそのまま食べてくれるという展開はもちろんなくて、指から丁寧につまんで口に放り投げる。

「ん…なかなかうまいな、これ。」

「ね。コーティングされてるチョコレートがいいアクセントだよね。」

もう一ついる?とさっきと同じように差し出すが、紅郎は首を横に振る。

「あーあ、振られちゃったね。大丈夫だよ〜私が食べてあげるからねっ。」

語尾にハートが付きそうな言い方でチョコレートに話しかける。
端から見たら完全に変な人だが、今の私はちょっと疲れていて、しかも差し出したチョコレートを紅郎に受け取ってもらえなかった。我ながらなんというか、子供じみたいじけ方をする。

持っていたチョコレートを口に入れるが、長く持っていたせいか、溶けたチョコレートが指に残る。手を洗いに行く為に立ち上がるのが面倒で、行儀悪いと知りつつも指も口に含む。

「ん?ほしあの?」

視線を感じて振り向くと、なぜか紅郎は赤い顔をしてこちらをガン見している。

ぺろりと嘗め取った指を口から出したとき、ちゅっとリップ音が鳴る。

その瞬間、腕をぐっと捕まれ口をふさがれる。

口にはさっき入れたばかりのチョコレート菓子が入っているが、紅郎はお構いなしに深く求めてくる。

口を開けろと言わんばかりに合図されるが、口の中に残っているものを考えると恥ずかしくて出来ない。そのまま攻防するが、結局敵わずに開けてしまう。

侵入してきた舌はさっきとはうって変わり、優しく口内を満たす。そしてまだ残っていたチョコレートを見つけると、絡め取るように持っていってしまった。

「び、びっくりした…」

「…ん、わりぃ。可愛いこと言うかと思ったら、仕草があまりにも色っぽくてよ。つい。」

その顔には反省の色はなく、むしろにこにことしているせいか状況を楽しんでいるかのように見える。

「で、おいしかった?ってかそんなに欲しいならまだあるからあげるよ?」

「…そうか、んじゃ、じっくり味わって食べねぇとな。」

言い終わるなり、今度は背中に手が回され顔が近づいてくる。

「ちょ、ちょっとまって。」

「なんだ、嫌か?嫌ならやめるが…」

「味わうって、お菓子じゃないの?」

舞台で見せるような、にやりとした好戦的な瞳を向けられる。思わずぐっと黙ると、紅郎はおかしそうに肩を振るわせる。

「チョコレートも旨いんだがな。チョコレートを食った嬢ちゃんを食っちまえば、全て解決するだろ?」


題:食うと食われると


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