・紅郎との日々
□慈しみ
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「嬢ちゃん、脱ぐのは俺の前だけにしとけよ。」
はい。と静かに返事をする。いつもみたいに「よくできました」って頭を撫でられるかと思ったが、紅郎は真顔のまま私の体自分の方へと引き寄せ、壊れ物を扱うように触れる。
まるでガラス細工を扱うような手つきだ。大切にされているといつも感じるこの瞬間が、私はたまらなく好きだ。
「…っ。」
「くすぐったいか。」
「ううん、大丈夫、続けて。」
太く長い指が、そっと背中を撫でる。するすると肌を触る感覚にぞわぞわと身を震わせる。恥ずかしい事に、鳥肌が立つのが分かる。指の腹が当てられる度に、指紋まで分かるんじゃないかというくらい紅郎は柔らかく触れてくる。
「んっ…っ…くっ…」
「力入れんな。息も止めんな。ほら、しっかり息吸え。」
いつもとは違う目線。それだけでなく、いつもは上から聞こえる紅郎の声がおなかの方から聞こえるというのは、不思議な感覚だ。
「よし。サイズは殆ど変わらねぇな。気持ち痩せたかってくらいで、あとはそのままだ。」
「はーっ、何回してもらっても緊張する。」
するすると肌を滑っていたメジャーが巻き取られていく。その感覚がまだ残っているような感じがして思わず腕やおなかをさする。
本音を言えば、温かい紅郎の手は正直こちらを意識していない分、余計感じてしまう。対照的に体へ当てられたり巻き付けられるメジャーはにひんやりとしているのでその落差が余計すごいのだ。そっとしてくれるのは嬉しいが、なんせくすぐったい。
紅郎は定期的に私の体を隅から隅まで計測する。ワンピースやシャツなど手が空いたときに作るためらしい。サイズが合わないと困るからと言うので体型維持も兼ねて計測をお願いしているのだった。
「ん〜、しかしまぁ、いつ測ってもらっても、ぞわぞわする。」
う〜んとのびをすると、紅郎は苦笑しながら立ち上がる。
「感じるのは、俺の手だけにしてもらいてぇんだがな。」
たまに、こういうことをさらっと言う。爆弾だ。しかも今日は絶対分かってやってる。しゃがんでいたのにわざわざ立ち上がって耳元で告げてきたのは確信犯だ。
低音の声の波形が、囁かれた耳をぞわぞわと刺激して波紋を呼ぶ。
「いつも、ちゃんと感じるよ。温かさも、ちょっと節くれ立った指も、手も、くちび…」
言い終わらないうちに唇をふさがれる。そっとするキスが多いけれど、そんな生やさしいものじゃない。熱が籠もっているような、挑発するようなキスだ。
長いキスが終わると、紅郎は脱いだシャツを拾ってくれた。受け取ろうとするがシャツはするりと手をすり抜けた。
「どうしたの?測り忘れ?」
「せっかく色っぽい格好してるしな…もし嫌じゃなければ、このまま、するか…?」
返事をするのももどかしくて、代わりに紅郎の手からシャツを抜き取って椅子にかける。
振り向いたら、紅郎も私と同じ格好だった。
「欲情した?」
「そりゃ、測ってるときからな。」
冗談で聞いたのに、その答えはズルイ。もはや二人ともベッドに行くのも、もどかしかった。
題:慈しみ