・紅郎との日々

□おそろい
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ピアスの穴を開けようかなと相談したら、険しい顔をされた。女の子が体に傷なんかつくるもんじゃねぇと苦い顔で一蹴されてしまったのだ。

出会った頃から、実は紅郎のピアスが羨ましかった。それこそ紅郎と出会う前からピアスがしたいと思っていたのだが、なんだかんだで機会を逃してしまっていた。

数日後。たまたま仕事帰りに通りかかった駅ビルの中に新しいアクセサリーショップが出来ていた。どんな店かと覗いてみたら、品揃えが豊富でなかなか趣味に合う。仕事の都合上、紅郎みたいにいくつも穴を開けるわけにはいかないが、両耳に1つずつくらいなら問題ない。そう思った私は衝動的にピアスとピアッサーを買って帰ってしまったのだ。

一人機械を手に取り鏡を見て位置を確認する。深呼吸をして、いざ…!と思った瞬間、手からピアッサーが抜き取られる。

「…お、おかえり…今日は遅くなるって言ってたよね?」

怒ってる。それも、ものすごく。紅郎の顔は数日前に相談した時よりもはるかに眉間の皺が深くなっている。普段忠告ぐらいはするものの、怒りを露わにしない紅郎がここまで不愉快さを表に出すのは見たことがなかった。

「あ、あのね、急に手出したら危ないよ。」

「危ねぇのは嬢ちゃんだ。手元は震えてるは顔は血の気が引いてるわ…そんなんで穴あけようなんざ思わねぇ方がいい。」

深いため息をついてテーブルにピアッサーを置くと、紅郎は私の隣に座る。

「そんなに開けたいのか。」

目を見るのが怖くて、うつむいたままこくりと頷く。

「あ、あの…ご、ごめんなさい。」

前から開けたかったこと、紅郎と同じようなピアスがしたかったこと。みんな正直に話した。その間中、紅郎はずっと無言だった。一言も発せず、ただじっと話に耳を傾けていた。

「わかった。俺がやる。」

紅郎は立ち上がるとガーゼや消毒液、氷を持ってきててきぱきと準備をする。ホントにいいんだな。と最終確認されると、バチンと大きな音がする。

「…痛いか?」

少し痛みを感じるくらいだと言うと紅郎は今日一番のため息を吐き安堵の笑みをこぼした。

「心配すんな、責任はちゃんと取る。」

「責任?まさか失敗したの?!」

「いや、穴は綺麗に空いてる。その、だな。つまり嬢ちゃんを傷物にしちまったからな…今すぐとはいかねぇが…ちゃんと俺がもらうから。」

ピアスの穴くらいで大げさな…。と思うが、初めての時も同じ事言ってたことを思い出す。なんとなく、大きな声で言うのが恥ずかしくて耳元に唇を寄せて小声で告げると紅郎は赤くなりながらも気まずそうな顔をする。

「あのなぁ、そういう恥ずかしい事を言うんじゃねぇよ。女の子なんだから。」

そう言いつつも私の耳にピアスを丁寧にはめてくれる。

「紅郎は何回お嫁にもらってくれるつもりなのかな?」

「一回だけだ。その一回で終いだよ。俺は嬢ちゃんを一生手放すつもりはねぇからな。それに…」


何度も傷物にしてたまるかよ。と言われ、ちょっと乱暴に口をふさがれた。




題:おそろい


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