・紅郎との日々
□かまって
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私が作ったら紅郎が洗い物をする。紅郎が作ったら洗い物は私がする。
一緒に暮らし始めた時、お互い不規則な生活故、寝食が揃わないことが多くなるのは目に見えていた。だからこそ、一緒にいられるときは分担したいと申し出た。
多分、そうしないとこの人はみーんなぜーんぶ自分でしてしまう。それだけならまだしも、きっと私の事まで先手を打ってくる。
今日は一緒に過ごせる珍しくも嬉しい日だった。私の方が帰宅時間が早かったため、久しぶりに夕飯を作る。そして今、紅郎は台所で食器を洗っている。
特にいたずらをしようとか、そういうわけじゃないけれども、心がうずいて止まないし一人でいるのも手持ち無沙汰なので思い切って後ろから抱きつく。
「どうした、嬢ちゃん。甘えたさんか。」
もっとびっくりされるかと思ったのに、案外淡々としていた。なんだかこちらのすることをお見通しだったみたいな反応だ。
そんな私の態度さえもくみ取ったのか、おかしそうに顔をくしゃっとして笑う。
「もーちっとうまくやらないとな、嬢ちゃん。向こうから来るときから顔がにやにやしてたぞ。」
くくくと体をくの字に折って笑う。なんとなく悔しくて紅郎の着ていたパーカーのポケットにズボッと手を突っ込む。そのまま指をおなかに這わせてばらばらと動かす。
「くっ、ふっ、やっ、やめろっ…くく、ははは。降参だ降参。参った。」
くすぐったさから身をよじりながら目に涙を溜める姿は、私だけの知っている姿だ。何に笑っているのかさておき、紅郎は、「はーはー」と息を荒くしている。
「せっかく驚かそうと思ったのになぁ。」
「悪かった。もうすぐ終わるから、機嫌直してくれよ。」
さすがにお皿を拭くときに抱きついていたら危ないかなと思い、素直に離れて待つ。手元にあった雑誌をぱらぱらと流し読みしていると、ぴとっと首元に何かが当たる。
「ひにゃっ。」
「お返しだ。っくく…嬢ちゃん、可愛い声だな。」
どうやら紅郎は私の首に両手をぴたりとくっつけたらしい。変な声が出たことはスルーして欲しかった。恥ずかしくてがばっと紅郎の首元に抱きつくと、泣いた子供をあやすようによしよしと背中をさすられる。
「よしよし。でもそんなに可愛く驚かれると、驚かした甲斐があったもんだな。」
「あー恥ずかしい。今度は絶対びっくりさせてやる〜。」
紅郎がお風呂に入っているとき、夏祭りのクジで当てた水鉄砲をお見舞いしようと固く心に決意したのはまた別の話。
なかなか会えないことにもやもやしたり、一人暗い部屋に帰る事もない。直接言葉が交わせなくても、顔が見れなくても、一人きりの部屋に帰る訳ではない。それはとても大きな事だった。
何より何時でも、紅郎と時間も場所も、全てを共有できることが最良の幸せだ。こうして一緒にいられるときは、なおさら。
題:かまって