・No one…

□2度目のクリスマス 5
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頭を撫でられてる感覚に、ふと意識が浮上し目が覚める。

「おはよ、朔」

「ん…おはよう、やまと…ん…体痛い。筋肉痛だ…。」

「お兄さん、案外平気だったみたい。ここは?痛くない?」

「朝からそんなところ触っちゃダメ。……ちょっと痛いけど、大丈夫。ありがとう。昨日はとびきりよかったよ」

「俺も。幸せだった。ありがとう。でもやっぱりちょっと細すぎだな。なんかもう本当折れないか心配だったし。とりあえずお兄さんがニマニマできるくらいの身体になるよう、しっかり見てないとだな〜」

「そうそう。ちゃんと見てて。なんなら揉んで育ててくれていいよ?」

「朔さぁ……そういうのどこで知るの?」

「ふふ、内緒。知りたい?」

「そのうち教えてくれればいいよ。言いたくなるよう頑張るから。あ、そうだ。朔、メリークリスマス。」

「わぁ!嬉しい!ありがとう大和。なんかとっても重いけど……これは、ワイン?」

「そ、あたり」

豪快に真ん中から包装紙を割くと、とても立派な木箱が出てきた。

「ここ、よく見て」

ちょいちょいと指さされたところ見る。箱に貼ってあるラベルをじーっと見ているうちに、涙で字がにじんで見えてきた。

「またお酒が飲めるようになったら、好きな時に開けて飲んでみて。自分の生まれた年にできたワインの味、知りたくない?」

「い、いっしょに……のもう。け、結婚するときに開ける…やまとが、プロポーズしてくれるまで、とっておく」

「えっマジで?」

「瓶も箱も、一生とっておく……」

「そっか。そんな風に思ってもらえてうれしいよ。ありがとう朔」

「ん……大和、MerryChristmas」

「お、今年はなんかやけに小さいな……ブローチ?」

「ジャケットよく着てるから。それなら、使ってもらいやすいかと思って」

「ありがとう。これでいつでも朔を身近に感じられる。そんで?お前さんのことだからどうせリビングにも置いてくれてるんだろう?」

「もちろん。あと2つあるよ。早く開けて」

「あと2つも?マジかよ…お兄さん、今年はちゃんと2つ用意したつもりだったんだけど、朔のほうが一枚上手だったか」

「そんなことないよ。大和だって昨日、素敵なものを見せてくれた。もうきっと、この時期のイルミネーションも星空も街の灯りも怖くない。むしろ暖かく幸せなものに感じる」

「そう言ってもらえてよかったよ。ところで朔は何を作ったの?」

「知ってたの?なんで?」

「1回病院に迎えに行った時、なんか針作業してんなーとは思ったんだ。迎えの時間になるとすぐしまってたから、プレゼントかなって思ったんだよ」

「見られてたのか……頑張って作ったんだ。だから早く見てほしいな」

「んじゃ、リビングに行きますか〜。アイツらももう起きてるみたいだし」

「大和、筋肉痛だからおんぶして」

「いいよ。ほら」

「ん、ありがとう」

「みんなに揶揄われてもいいのか?」

「いい。今日はクリスマスだからね。大和は大変だろうけど」

「いいよ。幸せな重さだなって思えばなんてことないよ。それと今日はデートしよう」

「知ってる。病院まででしょ〜あー筋肉痛なのになぁ〜」

「リハビリが終わったら、ホテルとってあるから、そこでゆっくりしよう。出かけるのはまだ無理かなって思って、ひきこもるほうにシフトしたんだ」

「大和、仕事は?」

「みんなが協力してくれて、ずらしてもらったから、今日はオフだよ」

ドアを開けると、早朝だというのに昨日のパーティーの続きでもしてるかのような元気な声が聞こえてくる。

「朔!メリークリスマス!プレゼントありがとう!大事にするね!」

「おはよう陸。喜んでもらってよかったよ」

「おはようございます。二階堂さん、早速朔さんのこと甘やかしてどうするんですか。朔さんのためになりませんから、ちゃんと歩かせてください」

「まぁそう言うなって。筋肉痛なんだってさ」

「……原因は貴方のせいでしょう」

「え?ごめんなんて言った?」

「なんでもありません。朔さん、プレゼントありがとうございます。ですがこんなに大きい抱き枕は今回限りにしてください」

「ゆっくり癒されて眠れるかなってね。柔らかくて可愛いでしょ?うさぎさん、大事にしてあげて」

「んじゃ、お兄さんもプレゼント開けるかな〜。こっちは……へー、ネクタイだったのか。なるほどね、一生懸命してたのは刺繍か」

「そう。頑張ったよ。それぞれのモチーフを入れたんだ。よかったら使ってね」

「ありがとうな。もういっこは……ん?これ……切り子のお猪口か」

「ふふ、ちょっと被ったね。大和、素敵なヴェネチアングラスのワイングラスありがとう。また飲めるようになったら、一緒に飲もう」

「なぁ朔?この虹色のリボンがついてるめっちゃでっかい箱って、誰宛なんだ〜?」

「もちろん、虹色だから、IDOLiSH7へ。それはNOneからのクリスマスプレゼントだよ」

「マジで?!本当に?!なんでこんなでっかいんだ?」

「開けてみたらいいよ。全員いるだろ?開けてごらん。早く世界のNOneにとびきり最高の笑顔と驚きを見せてよ」

「うわ……朔が久しぶりにやばい顔してる。ひとまずここは代表してリーダー!ほら!早く開けてくれよ!」

「マジで?んじゃ…………え?」

「イヤホンだ!」

「すべて私たちの色と……イニシャル入りですね」

「それと……楽譜ですね」

「そう。お仕事だよIDOLiSH7。イヤホンのCM作らないかって言われて、それならってことで特別に7色のものを作ってもらった。君たちにはそれをつけて、7通りの楽しみ方をするCMと、CMソング、そしてその曲のMVを撮ることになったよ。詳しくは紡に聞いて。CMで使われる劇判も出来てるから、あとで各自聞いておいてね」

「ということは、これ、新商品ってことですよね?わーすごい!早速音質を試したいなぁ」

「ふふ、気合い入れて作ったからね。きっと壮五も気にいるよ。ちなみに収録は来月の中旬だから、がんばれ」

「嘘だ……まじで?!おれテストあんのに!」

「すげーハードスケジュールだよな。ブラホワ終わって年明けてすぐじゃん」

「朔さん……これはクリスマスプレゼントじゃなくてもよかったんじゃ……」

「んー、断ろうと思ったんだけど、先方がどーしてもってしつこくてさぁ。万理が代わりにIDOLiSH7をCMに出してくれって無茶言ったら通っちゃったんだよ。だからNOne側の条件として、CM用に7色特別に作ってってお願いしたら、直ぐ上がったんだ。色味もいいし、もう熱意に押されたよね。断れなくて引き受けちゃった」

「引き受けちゃったって……朔、アンタなぁ……」

「うん、みんな頑張れ!あ、ロケは長野と宮崎でやるって言ってたよ。楽しみだね〜」

「朔さん……貴方って人は本当に……」

「新曲楽しみだな〜!」

「七瀬さん、貴方冬の長野ですよ?!分かってるんですか?!」

「まぁまぁ、とりあえず飯にしよう!クリスマスだしパンケーキでいいよな!」

バタバタと三月を筆頭に、いつものような朝の光景に切り替わっていく。それでもクリスマスの朝だからか、みんなどこか楽しそうだ。

「朔、お疲れ様でした。サプライズ大成功でしたね」

「ナギ、色々ありがとう。巻き込んで悪かったね。でも助かったよ」

「ナギはグルだったんだ?」

「大和、そんな言い方しない。今回は交渉面で万理だけだとかなり不利だったんだ。それだけ手強くてさ。まぁ、世界的なメーカーだったし、万理と一緒に交渉してもらいに行ってたんだ」

「なるほどな〜。でもそういうのは、今度からリーダーの俺にも話してくれない?」

「プロデュースを請け負ってる私にも話してください」

「こうなるだろ?だからナギに介入してもらう時、今回はNOneからってことでお願いしたんだ」

「六弥さんダメですよ、朔さんに買収されるなんて」

「oh〜イオリ、ワタシは友人の力になりたかったのです」

「そういうこと。さ、ご飯食べてレッスンしなよ?大和は向こうでみっちりみてあげるよ」

「ずるいですよ二階堂さん。そういうことなら寮のリビングでデートしてください」

「イチ〜お兄さんの恋人に無茶なこと言わないの。クリスマスなんだから大目に見てくれよ」

「一織、大和さん、ナギ、朔、飯だぞ〜!席につけ〜!」

小鳥遊寮は、今日も賑やかで明るい。アドベントカレンダーは全ての窓が開き、クリスマスツリーの下にはたくさんの開けられたプレゼント。笑顔と笑い声が溢れたこの空間に、自分がいられることに深い喜びを感じる。クリスマスなんて、自分には永遠に関係ないと思っていたのに、今年も幸せな時間が流れている。

自分もここの一員なんだと、今なら素直に思える。その幸せを生み出して作ってくれている彼らにも、たくさんの幸せがあることを祈るばかりだ。

「朔?おんぶじゃなくて抱っこにするか?」

「食卓までは歩くよ。でも手は繋ぎたいな」

「はいよ」

「あー、幸せだなぁ」

「そりゃよかったよ。これからも毎年、幸せなクリスマスにしような」





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