・No one…

□#10
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葉が茂っていた季節がすぎ、秋の盛りが過ぎようとする頃、朔の誕生日会を病室ですることにした。陸が発案したのだが、流石色々手慣れているだけあって、あっという間に病院側を説得させてしまった。

ささやかだが、持ち込んだ花束や画用紙で作った飾りで彩った。ケーキはあらかじめ切れているものを買ってきて、かわいい紙皿に並べた。

「朔っていくつになるの?」

「確か百さんと同い年だったかな……?」

「まじか。でもなんか分かるかも。飄々としててもしっかりしてるもんな」

「とんでもない大人ですけどね。私なんて何度からかわれたことか……」

「一織や環は朔にとって可愛くて仕方ないんだろうな〜。俺は自慢の弟や自慢のメンバーが愛されて嬉しいよ!」

「三月さん、準備終わりました」

「早くケーキくおうぜ!俺たちが楽しそうにしてたら朔っちも目覚ますかもだし!」

「そうですね。ではHappy birthdayを歌いましょう」

壮五がこの日のためにアレンジしたバースデーソングを、ベッドを囲うようにして7人で歌う。綺麗に重なったハーモニーが、病室を温かい空気で満たしていく。

「よし、そしたら大和さんから朔に一言!」

「ええ?いきなりだな……」

そう言いつつも、大和はすんなり前に出ると朔の寝ている横に立った。相変わらず青白い顔をした朔の横からは、無機質な電子音が規則正しく聞こえる。

「朔、誕生日おめでとう。こんな形で祝うことになるとは、思ってもなかったよ。できれば、俺たちみんな朔の口から朔の誕生日を聞きたかった。あの事故の日から毎日、どうして朔が眠ったままだったのか、分からなかった。不安でたまらなくて、夜も眠れなかった。俺が呑気に寝ている間に朔が目覚めたらって思うと、怖かったんだ。朔のこと、縛りたくないって思ってきたけど…今は捕まえておきたくてたまらない。だから、俺のわがままを許して欲しい。朔…お願いだから起きてくれよ。目を覚まして、俺が好きだって言って。もし寿命が足りないなら、俺の寿命半分やるから。苗字は二階堂がいいって、前に言ってくれたよな。二階堂になれば、天涯孤独じゃなくなるって、笑ってたろ?俺は朔が欲しい。朔と一緒にいたい。朔が笑ったり、真剣な顔して演奏したり、厳しいこと言ったり、寒い夜に甘えるように擦り寄ってきたり、熱いシャワーやドライヤーに怯えたり、気の抜けた顔で寝てる横顔を、まだ隣で見たい。手繋いで酒飲みたいし、朔に食べさせたいものもある。一緒に桜見に行こうって約束しただろ。海で花火見て、赤く染まった紅葉の下で弁当たべて、今年はヤドリギの下でキスしようって。お願いだから、俺とまだ一緒に生きて。俺と同じ時間を、過ごそう。もし、朔がイギリスに帰りたいなら……俺、会いにいくから。だから、朔は自由に行きたいところに行って、生きたいように生きて大丈夫なんだ」

「大和さん……」

「二階堂さん、そんなこと言って本当に朔さんがイギリスで生活すると言い出したらどうするつもりですか」

「どうとでもなるよ。大丈夫だよ。お兄さん道覚えてるから、朝日に向かって真っ直ぐ歩いて行ける。だからちゃんと会いにいくよ。朔には自由が似合う。翼があるなら、飛んだ方がいい。だから……朔……お願いだから、目を覚ましてくれよ」

みんなが見てる前で、朔の手を握り躊躇いなく唇にキスを落とす。もう、誰がいても、見られていても構わなかった。無反応なのが悲しくて無理に唇を合わせようとした時だった。わずかに口元がピクリと反応した。

「さ…?朔…?」

「……っ…」

「朔!朔しっかりしろ!」

「ぅ……」

「朔!朔っ…!」

「………?」

「朔、朔!!」

「ん…………ん、……」

久しぶりに開いたペリドット色の瞳に、7人が歓喜に沸いた。なんとか冷静さを取り戻した一織がナースコールを押してからは、医者や看護師が出入りし、大変な騒ぎとなった。

「朔さん、あなたは本当……自由すぎますよ」

「朔、本当よかった!」

「俺めっちゃ嬉しいよ。朔……本当よかったな」

「おれ、おれ……朔っちのばか。おれ、めっちゃ心配した!」

「朔さん、よかった、よかった、本当によかった……」

「ハーイPrincess。お姫様は王子様のキスを待っていたのですね」

「朔!目が覚めて本当よかった!俺、すっごい心配したんだよ!」

7人の言葉に、なんとか頷き返す朔の目には、涙が溜まっていた。

その後、ひとまず身体に問題ないが、精密検査とリハビリのためもうしばらく入院することになった。

しばらく体を使ってなかったこともあり、一人では起き上がれないし、声も掠れていた。それでも大きな異常はないとされ、パーティーは中止となったものの、みんな涙を流しながら別のお祝い騒ぎとなり、看護師に怒られたのは言うまでもなかった。

知らせは瞬く間に広がり、方々からもお祝いとお見舞いの言葉が続々と届き、小鳥遊事務所の電話はしばらく鳴り響いた。


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