・うたプリ 中短編

□夏祭り
1ページ/1ページ



「なんだ、それが欲しいのか?」

なんとなく目を奪われて見ただけなのに、瑛一は一瞬にして視線の先を捉えると、一本の簪を指差した。

「店主、これを頂こう。」

「え、瑛一…」

「なんだ、もしかしてこの隣の方が良かったか?」

「ううん、そうじゃなくて…」

「なんだ。なら遠慮するな。ほら、後ろを向け。俺が挿してやろう。」

有無を言わせない言葉のはずなのに、紡がれる声は慈愛に満ちていた。素直に背中を向けると、瑛一はそっと頭に手を添えた。結い上げた髪に、するすると簪の挿さる感触が伝わってくる。

「イイ…よく似合っている。綺麗だ。」

「…っ。」

「どうした。耳が赤いぞ。あぁ…首筋まで赤いな。まるでこの赤い簪のようだ。それに、背中から見ると抜き襟のせいでなお色っぽい。最高にゾクゾクする。」

頭に添えられていた手はゆっくり肩から腰に向かって流れていく。瑛一はそのまま腰に手を回すと、自分の方に抱き寄せ、こめかみに小さくキスを落とした。

「可愛いな。蒼生によく似合っている。プレゼントした甲斐がある。」

「ありがとう。でも…褒めすぎじゃない?」

「俺は事実を言ったまでだ。信じられないのなら何度でも言うぞ?最高に美しい。」



本当なら…今すぐにでも攫ってしまいたい。


そう呟いたのは、今夜は聞こえなかったことにしよう。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ