・うたプリ 中短編
□夏祭り
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「なんだ、それが欲しいのか?」
なんとなく目を奪われて見ただけなのに、瑛一は一瞬にして視線の先を捉えると、一本の簪を指差した。
「店主、これを頂こう。」
「え、瑛一…」
「なんだ、もしかしてこの隣の方が良かったか?」
「ううん、そうじゃなくて…」
「なんだ。なら遠慮するな。ほら、後ろを向け。俺が挿してやろう。」
有無を言わせない言葉のはずなのに、紡がれる声は慈愛に満ちていた。素直に背中を向けると、瑛一はそっと頭に手を添えた。結い上げた髪に、するすると簪の挿さる感触が伝わってくる。
「イイ…よく似合っている。綺麗だ。」
「…っ。」
「どうした。耳が赤いぞ。あぁ…首筋まで赤いな。まるでこの赤い簪のようだ。それに、背中から見ると抜き襟のせいでなお色っぽい。最高にゾクゾクする。」
頭に添えられていた手はゆっくり肩から腰に向かって流れていく。瑛一はそのまま腰に手を回すと、自分の方に抱き寄せ、こめかみに小さくキスを落とした。
「可愛いな。蒼生によく似合っている。プレゼントした甲斐がある。」
「ありがとう。でも…褒めすぎじゃない?」
「俺は事実を言ったまでだ。信じられないのなら何度でも言うぞ?最高に美しい。」
本当なら…今すぐにでも攫ってしまいたい。
そう呟いたのは、今夜は聞こえなかったことにしよう。