・あんスタ 短編
□トマトの… 朔間零
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トマトの… 朔間零
「う〜ん、いや、でもこうした方がいいかもなぁ。いや、違うかも。」
あんずは一人考えをまとめるため、ひたすらスケッチブックにペンを走らせる。出来るだけ、考えつく限りのことをしようとアイディアを出しては実現可能かどうか実証に必要な条件も踏まえまとめていく。それもこれも、みんな来たる日のために。出来ることはして上げたい。そんな気持ちから来る行動だった。
そんなふうにあんずが一心不乱に何かをしている所に零が現れた。
「嬢ちゃんや、そんなところで作業をして寒くないかえ?」
「大丈夫ですから、来ないでください。」
零からはピシッという音がしそうだった。いや、実際零の心にはひびが入ったであろう。しかし零は拒絶される理由に心当たりがあった。
「嬢ちゃんや、もしかして…我が輩のためかや?」
零はきらきらとした目を向けるが、あんずは見てるのか見ていないのか、再びスケッチブックに向かい合うと一人ぶつぶつと考えを再開させていた。
零は湧き上がる好奇心を抑えつつ、隣に腰を下ろすが、聞こえてきた独り言に耳を疑った。
「やっぱりトマトケーキ?ケチャップクリームとか…普通の野菜ケーキだとありきたりだから…あぁ、でも色味が濃すぎるなぁ。砂糖無しのメレンゲを使うとか…かな。」
「嬢ちゃん…あんずや、これ、ちょっと待つのじゃ。」
「もう、さっきからなんですか。」
あんずは考えを邪魔されたこともあり、至極不機嫌そうな態度だ。
「いやのう、ちょっと物騒な話題だったんじゃが…我輩ケーキはチョコか普通のショートケーキが良いのじゃが…」
「え…トマトじゃなくていいんですか?」
あっけにとられるあんずの顔もさることながら、零は目が点になるほどびっくりした顔であんずを見つめる。
「いや、でも…トマトがお好きだと聞いていたので…すみません、用意できる物は全てトマト味です…。」
「た、例えばどんな物をよういしてくれるのかえ?」
「まずはトマトのケーキ、トマトのジュース、トマトのピザ、トマトのソースが掛かった唐揚げ、それとトマトのカレー、トマトのフライドポテトにトマトのサラダもあります。それから…」
絶句する零をよそに、あんずは次々とトマトの…を繰り返す。もはやここまでくると一つの呪文のようだ。
零は何とか落ち着きを取り戻すと、精一杯の感謝を伝えようと笑顔を作る。
「そんなに沢山考えてくれて、嬉しいのう。じゃが、我輩生ハムとかも好きじゃよ。」
せめてトマトしかないトマトパーティーから脱却させようと提案した瞬間、あんずは盛大に吹き出しておなかを抱えて笑い出す。
「すみません、全部冗談です!ちゃんとしたパーティー、用意してますよ。」
だからもう少し、お楽しみで待っててくださいね!
HappyBirthday零!