・縁
□21 覚悟
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21 覚悟
「聖川は?」
「今回はアイツ抜きで話さなきゃいけないんだ。 いいかいみんな…聖川を止めるなら今だ。今なら最悪まだ間に合う。」
レンにしては、珍しく切迫詰まっていた。しかも普段のレンなら、どんなに状況が悪かろうと切迫していようと、その様子など微塵も出さないのに、今日に限っては隠す余裕どころか、全く隠そうとしていなかった。
「レンがみんなを集めるって…なんか珍しいよね。で、何があったの?どうしてマサは呼ばないの?」
「いいかい…このままだと聖川は彼女と結婚する。今すぐ…とはならなくとも、二、三年のうちに、いずれ必ず。俺たちはアイドルだ。だから…」
「えっ…ちょっと待ってレン、どういうこと?誰が誰と結婚するって?」
「ちょっといろいろな手を使って調べたのさ。聖川と睡蓮の婚約について、話がある程度まとまりつつあるらしい。」
「な…?!」
「は…?!」
「えぇえっ?!」
「そんな…我々は聖川さんから、何も聞いていませんよ。」
「そうだよ!そんなに大事な話…マサが俺たちに言ってくれないなんて絶対おかしいよ!」
音也が身を乗り出すも、レンは首を横に振ってそれを制した。
「聖川は藤崎の家の決まりで、婚約するまでの間、俺たちに諸事情を話すのを禁じられている。流石に好意を寄せているから行動しているとは言ってくれたが……アレも本当のところ、かなり危ない橋だ。それもあって、最近アイミーが俺たちや聖川を監視しているんだ。」
「なるほどな…確かに最近やたら藍がべったり張り付いてるなーとは思ってたんだ。」
「そういえば藍ちゃん、睡蓮ちゃんの傍にいるというより、ずっと僕たちを見ていましたよね。」
「それはそうとして、どうして今夜集まったのです?レンはどうして急いでいるのです?ワタシにはさっぱり分かりません。」
「時間がないんだよセッシー。アイツをとめるなら、今しかない。」
「つまり…聖川さんの結婚は…アイドルが結婚するということは、同じグループである我々にも影響が出る…と。で、レンはその騒動について、今夜何かが起こることを知って私たちを集めたのですね?」
「さすがイッチー。話が早い。いいかい、これは聖川ひとりの問題じゃない。色々おかしいとは思っていたんだが、まさかないだろうと思って今日までなんとなく来てしまった。だけど今なら…俺ならなんとか止められる…せめて今でなくとも、時を遅らせられる。だからみんなに集まってもらった。みんなの意見が聞きたいと思ってね。」
レンが話し終わって、一瞬の静寂が訪れた。皆突然すぎる話に浮かない顔をしていたものの、翔はぐっとにぎった拳を前に出すと、大きな声を出した。
「そんなの…決まってるじゃねぇか。俺は聖川のことを応援するぜ。」
「うん…だよね!マサが決めたことなら、俺も応援したい!」
「そうですね。突然のことでびっくりしましたが、僕も翔ちゃんや音也くんと同じ気持ちです。二人には幸せになって欲しいです。」
「ワタシもです。マサトは大事な仲間。ワタシたちで、二人のことを見守りましょう。」
「聡明で実直な聖川さんのことです…きっと、今回のことで沢山苦しんで悩んだことだと思います。決まり事とはいえ、きっと私たちの誰にも相談できないことに、酷く苦しんだと思います。誰にも明かさず、誰にも頼ることもできず…。それでも聖川さんは、睡蓮さんへの思いを諦められなかったのでしょう。だから、いつか…いつか話してくれるそのときを待ちましょう。私たちは彼を信じています。この先、例えどんなことがあったとしても。共に、ST☆RISH7人で乗り越えていけるはずです。」
「………アイツは幸せな奴だよまったく…。みんなが俺と同じ気持ちでよかったよ。ホッとした。もし一人でもアイツの結婚に反対するメンバーがいたら、俺は二人の恋路を妨害しなきゃならなかったからね。俺も…聖川とレディには幸せになってもらいたい。だから…いいかいみんな、よく聞いてくれ。」
レンは深呼吸をすると、みんなの顔を1人1人見回してから話し始めた。
「聖川は睡蓮と婚約を結ぶために、三日三晩睡蓮の部屋に通う。何時頃睡蓮の部屋を訪れるかは定かではないが、日の出る夜明け前には部屋を出て、自室へ帰るはずだ。二人はその儀式を経て、晴れて婚約となる。そこでだ、その通い路を誰かに見られたら…その儀式はやり直しになる。恐らく決行は…今夜からだ。」
「なるほど…だから時間がなかった、と。レンのしようとしていた妨害は、その通い路に出くわすことですか。」
「そうだね。むしろ応援するなら…2人の恋路を守るなら、先輩達も含め、聖川の恋路に出くわさないよう俺たちで細心の注意を払うしかない。」
「カミュなら、来週まで写真集の撮影でイギリスに行くと言っていました。」
「寿さんは確か連ドラの地方ロケに出ていますね。いつ頃戻るか一応念のため確認しておきます。」
「なるほどね。アイミーは一応気を利かせたわけだ。蘭ちゃんも、ツアーライブでしばらく戻らないはずだ。」
「じゃ、じゃぁ…まさか…マジかよ!」
「俺たち次第って、こと?」
「そういうことだね。イッキ。」
レンはそこまで話すと、ようやくふっと息を吐き出した。固唾を飲んで話を聞いていた他のメンバー達もレンが緊張を解いたことにより、ようやく肩の力が抜け明るい空気が流れ出した。
「それなら…全員で、毎晩誰かの部屋にお泊まりしましょうか。そうすればお部屋の外に間違って出ることも防げますし、皆さんの行動も把握しやすいですよね。何かあったとき作戦会議も出来ますし、日中の真斗くんのことも報告しやすくなりますよね。」
「そうだねシノミー。それがいい。さすがに1部屋に全員だと多いから、2手に分かれようか。」
「それと、念のため全員のスケジュールを把握しておきましょう。私たちは何かあった際にはすぐに連絡を入れることにして、全員の行動を、全員がなるべく逐一把握しておきましょう。」
「さっすがトキヤ!頭いい!そうしようそうしよう!」
「みんな………ありがとう。」
「どうしてレンがお礼をいうのですか?ワタシたちはみな仲間です。」
「ったく…セシルの言うとおりだぜ。お前ら普段からもそうやって仲良くしろよな。レンのこの態度、聖川に見せてやったら絶対驚くだろうな。」
翔がやれやれといった様子で大げさに身振り手振りを付けると、周りからは笑い声が起きた。
「言うまでもないけど、アイツは…聖川はアイドルを辞める気はさらさらないそうだ。その話はボスにもしてあるし、藤崎の家も了承しているそうだ。だから、アイツのことは俺たちが支えてやろう。それと…このことを俺たちが知っていることは、絶対に誰にもバレちゃいけない。聖川にも、いつも通り接すること。ただ…今日から3日間は殆ど不眠不休で心身共に疲れているだろうからね、そこは辛そうだったら気遣ってやって欲しい。」
「レンくんお兄ちゃんみたいですね。」
「本当に。」
「やれやれ…レンもマサも素直じゃないですねぇ〜。」
「オトヤ、まるでトキヤみたいな言い方ですね。」
「でしょでしょ?似てた?今度嶺ちゃんの番組でトキヤのものまねやってみよっかな〜って思って!」
「音也、残念ですが全く私に似てませんよ。」
「え〜そんなこと言わないでよ〜。翔は?どう思う?」
「ん〜、60点だな。」
「うわぁ、微妙。」
「みんな…本当にありがとう。」
「レンも元気出せよ!うし、全部片付いて落ち着いたらみんなで飲みにいこうぜ!そしてそこで聖川に根掘り葉掘り聞いてやろうぜ!」
「やった〜飲み会だ〜!」
「飲み会ですね!一発芸しましょう!」
「セシル君がするんですか?」
「やります!マジックなら出来ます!」
「いいぞセシル〜!」
「レンも聖川さんも、仲間に救われましたね。」
「ああ、ホントに。まったく肝が冷えたよ。」
「しかしレンの情報網は恐怖さえ感じるほどですね。」
「今回はだいぶ危ない橋を渡ったよ。なんていったって相手は藤崎の家だ。それでもやっぱり、聖川は俺たちの仲間だからね。」
「日頃から、今回の10分の1でいいので、その優しさを聖川さんに見せて差し上げるべきですよ。」
トキヤが少し呆れたような声を出すと、レンは自嘲的な笑みを浮かべつつもトキヤの肩に手を置いた。
「アイツがもう少し昔みたいなかわいげを俺に向けてくれたら、考えるさ。」