・No one…
□#12
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12月になって数日、銀杏が綺麗に染まり北風が足元を吹き抜けていく中、小鳥遊事務所には温かな空気が満ち満ちていた。
「朔おかえり〜&退院おめでとうー!!」
「ありがとう。みんな。」
まだ1人では十分に歩けないので、タクシーで帰ってきてからは大和におんぶしてもらい、なんとか寮へ入った。ほんの数メートル歩くだけで体が軋み、息が上がるのを情けなく思う。
「ただいま…といえることが、こんなにも……こんなにも幸せに感じられるのは、居場所をくれた、IDOLiSH7のみんなのおかげだね。本当、ほんとうに…みんな、ありがとう。ここに帰ってこられて、よかった」
「サク…泣かないでください。レディに涙は似合いませんよ。」
「朔の帰る場所はここだよ!おれ、ずっと毎日待ってたよ。」
「朔さん、おかえりなさい。私たちにはあなたが必要です。あなたにも私たちが必要です。だから、これから先もきちんと貴方がいるべき場所へ戻ってきてください。そして私に、私たちIDOLiSH7に、あなたの曲を歌わせてください」
「サクっち、俺、家族が増えて嬉しい。サクっちも俺らの仲間だし家族だかんな。それに、サクっちにはプリンでできた血が流れてるから、これからも俺とプリンくおーな」
「ありがとう環。環には本当に感謝してる」
「八乙女にもお礼言えよ〜?3人ともだいぶ看護師さん困らせてたんだからな。もっと抜いて大丈夫だ〜とか何とかって騒ぐしさぁ」
「参ったな…楽とも同じ血が流れているのか。あ、今なら蕎麦がすすれるかな?」
「今夜は蕎麦ないんだけど、食いたいなら明日茹でてやるよ!っていうかすっかり痩せちまったな。今日からはオレの手料理うんと食べさせるから、覚悟しよろ〜!」
「お手柔らかに頼むよ。食欲はあるけど、体力がないんだ。食べるのも寝るのも一大事なんだよ。こんなんじゃギターも弾けないし、商売あがったりだな」
大和に背負われて、みんなに囲まれながらリビングに移動すると、そこはすっかりクリスマス一色だった。ソファに座らせてもらうと、なんだかようやく帰ってきたと実感できた。
「もみの木とヤドリギ、飾ってくれたんだね。」
「うん!みんなで飾り付けしたよ!アドベントカレンダーは、もうみんなで順番に始めちゃってるんだけど、朔は8日に開けてね!」
「ありがとう陸。みんなもありがとう。さて、大和はどこにいくのかな?」
「えっ……いや、別に?」
「しないの?」
「するの?」
「嫌ならいいよ。でも、2人だけの時でいいからしようね」
「っ…まいったな」
「あれですか」
「あれだな」
「あれ…って何そーちゃん」
「ほら、約束のことだよ」
「oh〜!ヤマト!キスしないのですか?私たちは気にしませんよ!」
「そ、そうだよ!お、俺たち向こう向いてようか?」
「いや…その……」
「大和。しようよ。いいじゃん、仲間の前で誓うみたいで幸せじゃない?」
「朔、あんなにみんなの前でイチャイチャすんの嫌がってたのにどういう風の吹き回し?」
「もう、いいかなと思って。それだけだよ。我慢したくないんだ。せっかく生きて帰ってきたし」
「なっ……もう、コイツらに四六時中からかわれても知らないからな」
「それはそれで楽しそうだね」
「っ、分かったから、もう黙んなさい。キス…できないでしょうが」
真っ赤に照れて恨めしそうな顔をしつつも、大和の瞳は優しかった。触れるだけの短いキスなのに、とても満たされた気持ちになった。
「みんなには、話しておきたいことがある。つまらない身の上話だけど、よかったら聞いてほしい。だから、Re:valeとTRIGGERも呼んでもらえるかな?」
「そう言うと思って、お呼びしてますよ」
一織が振り返ると同時に、一体どこに隠れていたのか、奥からゾロゾロと人影が現れた。
「見せつけてくれるね。退院早々大和くんとキスするなんて」
「やあ、千斗、百瀬。久しぶり。わざわざ悪いね」
「退院おめでとう。まだ本調子じゃないんでしょ?」
「かなりね。無理言って退院をもぎ取ったよ。だってあそこにいる方がおかしくなる」
「朔!立たなくていいよ!座って座って!」
「動かないといつまで経っても動けないんだよ」
「それでもまだ安静にしてろよ」
「やあ楽。天も龍之介も、久しいね」
「ご無沙汰しております」
「朔、退院できてよかったね!これよかったらみんなで食べて」
「ああ、ありがとう。曲、聞いたよ。まぁまぁよかったね。今度はもっといいものにしよう」
「……!それって…」
「ああ、また書くよ。今度は史上最高のTRIGGERを見せて欲しい。バラードも書きかけだからね。すぐに仕上げるよ」
「まずは元気になれよ。んなげっそり痩せちまった身体で仕事なんかしてみろ、ぶっ倒れるぞ」
「でも曲が欲しいんでしょ?」
「まずは健康第一だろ。ちゃんと食って寝て、元に戻ってからでいいよ。俺たちは待ってるからよ」
「楽には血まで分けてもらった恩がある。この恩はきっちり返す。本当にありがとう。それと、3人は目の前で事故を見たと聞いた。精神的に大きな負荷をかけてしまったことを謝るよ。申し訳なかった」
「謝らないでください。病院でもきちんとケアを受けましたから、ボクたちは大丈夫です」
「そうだよ!それに朔が助けた子は無傷だったって言うから、朔は1人の命を命懸けで救ったんだよ。無茶はダメだけど、誇っていいと思う」
「……分かった。3人とも、本当にありがとう」
こんなふうに、TRIGGERと深い縁ができるとは思っていなかった。
彼らとは、きっとこれから先もいい仕事をしていきたい。そのためにも、まずは心身の健康に努めようと心に誓った。
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