・No one…
□#7
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TRIGGERが新曲の練習を始め、IDOLiSH7のレコーディングが終わった後、みんなでくじ引きをして夕飯までの担当を決めた。
「こんな日、2度と来ないと思ってた。」
「うん、でもあの日とは違う。もう、あの時は戻ってこないんだ。」
陸と天がポツリと発した言葉にみんながふと懐かしそうな顔をする。彼らもここまで来るのにあれこれあったのだろう。
買い出しは一織、環、龍之介。
風呂掃除は楽、ナギ、陸。
食事の準備は大和、三月、壮五、天。
となった。
「なにこれ?BGM?」
「朔にピッタリじゃねぇか」
「前回はボクだったんだけど、後任が朔さんだと安心だね。というか、むしろボクらにとっては贅沢すぎるくらいのご褒美じゃない?」
「待って、ついていけない……BGMの役割ってどういうこと?」
「任せる!朔のやりたいようにしたらいいよ!」
ひとまずBGMという謎のくじを引いたので、みんなから聞こえる場所に椅子を置いて、小一時間ギターを弾くことにした。弾く曲はなんでもいいというので、せっかくだからIDOLiSH7とTRIGGERの曲を中心に、みんなの仕事が捗るような曲を引いた。一回だけRe:valeの曲を弾いたら、風呂場からスポンジを持って現れた陸がやってきた。歌ってくれとせがまれたが、流石にRe:valeの曲だからと丁重に断った。
IDOLiSH7もTRIGGERも、この先が見えてホッとしたのか、昨日と同じようにバーベキューをしているはずなのに、なんだか開放的な雰囲気だった。
「朔の曲って、なんで音も歌詞もピッタリくるんだろうね。さっきもらった新曲聞いたら、あ!この曲まさにTRIGGERだって一瞬にして空気から変わったんだ。凄いよね」
「そういえば俺と大和さんと一織とナギの5人で一緒にイギリスに行った時、なんかよくわかんないけど…朔は自然と一緒に呼吸をしてるんだなって感じたんですよね。寄り添って、汲み取って、委ねて……なんか、うまく言えないんですけど」
「違和感がないってヤツか?」
「ああ、そうそうそれ。そんな感じ」
骨つき肉を豪快に食べる龍之介と楽と三月は、まるで海賊のようだ。環は毎度おなじみ、お酒がすっかり回った壮五にべったり張りつかれている。陸は大好きな天にべったりして、一織は珍しくナギと真面目な顔をして何やら話し込んでいる。
「大和、混ざらなくていいの?」
「混ざってるよ。ちゃんと朔の隣にいる。朔おつかれ」
「ありがとう。大和もお疲れ様。大和が作ったマリネ、美味しかったよ」
「そりゃよかった。肉ばっかりじゃ寂しいから、十さんに頼んで生野菜とか魚も買ってきてもらったんだ」
「ワインまで買わせて、なんだか悪かったなぁ」
「いいんだよ。どーせ大人はみんな飲むんだし、子供たちはご褒美に甘いもの食べてるんだから。俺たちみんな頑張ったんだから、ちょっとくらい幸せ割り増ししてもいいと思うよ」
「ヤマさーん!もうおれ無理!」
「たぁくんいっちゃやー!」
「あーあー、ほらソウ、そんくらいにしておけよ〜。そろそろお開きにすんぞ〜」
「はーい!天にぃ!一緒にお風呂入ろう!」
「TRIGGERで話があるから、先に入ってて。寝る前にそっちに行くから」
「本当?!わーいやったー!」
ワイワイとみんなが引き上げていく波に任せて一緒に引き上げる。TRIGGERは残り火を囲んで3人でもう少し話すらしいが、大和も席を立つ気配がない。というか、多分あれは捕まっているのだろう。
「ちょ……離せって。俺ももう今夜は寝るから」
「いいじゃねぇかよ。あとちょっと付き合え。なぁおい。二階堂は朔がベロベロによったりしたところ見たことないのか?今日だって龍が買ってきたワインの他にもどっからか出して、ぺろっと飲んじまってたよな」
「朔はザル通り越してワクだよ。いくら飲んでも平気な顔してる。この間Re:valeの千さんと飲んだくれてるって言うから迎えに行ったけど、本当に2人で飲んだくれてたのか怪しいくらい1人でぴんぴんしてた」
「朔さんが甘えてきたり、弱みを見せたりってあるの?」
「ないよ。九条は朔の弱点が知りたいのか?なら無駄だよ。朔に弱みがあるとすれば、正体がバレることくらいだろ」
「恋人同士なのに甘えたりしないのかい?」
「いいんですよ。ってか、もしそうしてても俺は言いませんから」
「ふふ。いいんだよ言って。大和が感じたように話せばいい。朔は野良犬と熱いお湯が苦手で、寝付きも寝起きもいいけど本当は寂しがり屋で、言わなきゃいけないことほど言わないで黙ってるような奴だって。最近はラブソングならあっという間に仕上げてしまうし、千斗にはそれを見抜かれて苦い思いをさせられてる。ついでにその腹いせに千斗の前で百瀬と三月と大和を誘って高級焼肉食べに行くような奴でもあるって」
「おいおい…というかそれがさもあるかのように言う方がどうかと思うぞー。TRIGGERに変な幻想抱かせるなよ。ってか、俺も妄想の餌食になりたくないし」
「ふ…、妄想の餌食か。面白いね」
「言葉遊びなないんだから。あんまりお兄さんを揶揄うんじゃないの」
「ふふ。ごめんごめん。ちょっと新鮮だったからさ。普段見ない光景で、面白かった」
「お兄さんはそろそろ部屋に引っ込みますよ〜」
「待てよ二階堂。話が終わってねぇだろ。おい朔、こいつのこんなところでも愛してるのか?」
「ん?そうだね。かっこいい大和も、弱気になって苦しんでる大和も、情に厚くて涙もろい大和も、イライラすると貧乏ゆすりしたり癇癪起こす大和も、すぐ恥ずかしがって拗ねちゃう大和も、全部大和だよ」
「つまり」
「それって」
「愛の言葉は、本人にだけ囁くからね。君らTRIGGERには、聞かせない」
「っ…!」
「な…!」
「なるほど」
「いや納得するなよ天!朔だって、減るもんじゃねぇだろ。いいじゃねぇか別に。ここは絶界なんだろ。」
「それでも完璧じゃない。何より、アイドルでもないのに他人にサービスなんかしないよ。自分の信念に従って、自分の思うままに生きる。だから、大事なことは本人に言うし、安請け合いも安売りもしない。分かった?分かったなら、TRIGGERも寝なさい。大和も」
「朔は二階堂と一緒に寝ないのかよ」
「ここは恋人たちの隠れ家じゃない。みんな仕事をしにきてる。無論、同じく。これから君たちのソロバラードを書く。というわけでスタジオにいるから、何かあったらスタジオ入り口のベルを鳴らすんだよ。おやすみ天、楽、龍之介。おやすみ大和、良い夢を」
「なんだよ。二階堂だけ特別扱いかよ」
「珍しいもんですよ。朔はIDOLiSH7の前じゃあんなことしませんから」
「えっ、じゃあ寮内では本当に平等に接してるのかい?」
「ええ。子供たちもいますからね。ま、今日は誰かさんたちがしつこいし、ちょっと多目にみたんでしょうね」
「よかったな二階堂」
「よくねぇよ」
「は?なんでだよ」
「……さあな」
大和はビールの空き缶を握りしめると、そのまま残りを煽って飲み干した。
朔の中で、TRIGGERの存在がはっきりしてきてる。自分を見せてもいいと、思ったのか。大和にはその真意がわからなかった。分からないなら…聞くまでだ。勝手に想像してドツボにハマって自滅すんのはもう懲り懲りだ。気持ちにケリをつけると、大和は朔のいるスタジオに向かい躊躇いなくベルを鳴らす。まるで待っていたかのように、すぐに扉が開いた。
「来たね。奥へどうぞ。コーヒーでいい?ノンカフェインのものだから安心して飲んでいいよ」
「作業中にごめん。その…仕事の話じゃなくて、なんていうか…恋人として話をしに来たんだ」
「うん。そうだろうなとは思った。頬に赤みがさしてるから、ドキドキしてるなって。それで?さっきのこと?」
大和は素直にこくりとうなづくと、そのままハグをするように寄りかかってきた。抱き止めるようにして背中をさすると、少し落ち着いたのか、ぽつりぽつりと話しはじめた。
「朔、さっきどうしてTRIGGERの前であんなこと言ったんだ?」
「だって彼らしつこいでしょ?でもだからといって嘘はついてないよ。大和にはいい夢を見て眠って欲しい」
「まぁ、それは嬉しいけどさ。ってかそれ俺のセリフだから。なんか、朔らしくないっていうか」
甘えるように首筋におでこや鼻を擦り付けてくるのは、最近の大和のお気に入りだ。くすぐったくて身を捩るも、逃してくれない。
「ごめんね?驚いた?私情を挟んで悪かったよ。愛を疑われたのが……嫌だったんだ。大和のこと、好きなのに……大好きだし、こんなに愛してやまないのに……大和も、愛してくれているのに……」
「そっか。それにしても……これからも書くんだな、あの3人の曲」
「大和にはお見通しか。そうだね。アコギ一本でも彼らは歌えるし花がある。バラードも欲しいかなってね。それになによりそれぞれのソロはあってもいいだろう?彼らにはあれこれ歌ってみてほしい」
「妬けるなぁ」
「ごめんね」
「冗談だよ」
「大和の冗談は冗談に聞こえない」
「ごめんごめん。キスで許してくれる?」
「さて、どうしようかな」
「あはは、意地悪な朔も可愛いよ」
どちらからともなく顔を寄せ合い、そっと唇を合わせる。すぐに物足りなくなって、大和の身体を抱き寄せ密着度を上げる。大和も同じように、ぎゅうっと抱きしめ、キスを落としてくれた。
ほのかに甘く、ほろ苦いコーヒーの味だった。
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