・No one…

□Last All alone
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寮に付くと、さすがに疲れが出たのか、みんなそれぞれの部屋に吸い込まれていった。

同じように部屋へ向かおうとするも、繋いだままだった大和の手にくっと引っ張られて戻される。


「おいおい、お兄さん置いてどこ行くんだ〜。はい、お前さんはこっちな。」

そのまま引っ張られ、大和の部屋に引き込まれる。

初めて入った大和の部屋は、家具がほとんどなくシンプルだった。

大和が扉を閉めると、部屋は真っ暗になった。
ふと背中に温もりを感じると、大和が背中に覆い被さるようにくっついてきた。

身体の前に回された腕が、逃がさないという無言の意志を表明しているようだった。


「言ったろ、覚悟しろって。」

「な、で、あ…の…」

「落ち着けって。いきなり抱いたりしないから。その…気持ちが通じて嬉しいんだよ。だからさ、せめて今夜は一緒にいたい。」


砂浜の時の光景が、フラッシュバックする。

そして今、あのときと同じように大和が頬を寄せてきた。

でも、あのときと決定的に違うのは、いつもより少し低い声で、甘えたような声を出していることだ。

頬をすり寄せられ、うなじに顔を埋められる。
首筋に掛かると息が、甘い。

「今夜は一緒にいたい」…その意味を頭の中で必死に考え、受け止めようとするが、容量が足りない…いや、経験が足りなくてパンクしそうになる。

「なぁ、抱いたりしないとは言ったけど、キスはしていい?」


かろうじて、なんとか首を縦に振ると、大和は安心したようにそっかと呟いた。

どうしよう、どうしたらいいのだろう。

とりあえず任せておけば良いのか、それとも振り向くべきなのか、とにかく心臓が爆発しそうだった。

ぐるぐると頭の中をフル稼働させていると、大和はふっと短く笑った。


「そんじゃまぁとりあえず風呂入って寝る用意しておいで。ここで待ってるから。」

そうして、あっけにとられる暇もないまま、急かされるようにして洗面所へ追い立てられた。

今までのは一体何だったのかと思いつつ、シャワーを浴びて部屋着に着替える。

今日着ていたシャツを洗濯機に入れるか、たっぷり10秒悩んだ。



これは、明日も着よう。




支度を終え、部屋の扉を控えめにノックすると扉はすぐに開いた。


「お、ちゃんと来たな。」


さっきと同じように手を引かれて入ると、大和も部屋着になっていた。

大和はベッドに腰掛けると、ポンポンと真横を叩く。

おずおずとその場所に座ると、大和は肩を揺らして笑う。


「そんなにガチガチになられてもなぁ。なんかイケナイコトしてるみたいな気持ちになるんですけど。」

「ご、ごめん…緊張してて…。」

「大丈夫だから。いきなり取って食ったりしないって。さて、もう遅いし寝るか。」


大和は部屋の電気を消してベッドに横になると、さっきと同じように隣をポンポンと叩いた。

そろりとベッドに上がり、大和が空けてくれた隙間に横になる。

どうしていいか分からずにいると、大和は海辺の時と同じように抱きしめてくれた。


「人と横になるのも初めて?」

「そうだね…。同じ布団で、しかもこんなに近いのも初めてかな。」

「そっか。初めてがいっぱいだな。んじゃ、そろそろキスしてみます?それとも、やっぱり怖い?」

「怖くは、ない…ただ、緊張する。」

「それは俺も一緒。」


手を取られ、何事かと思っていると、掴まれた掌はそのまま大和の胸に当てられた。

しっかりした身体からは、想像以上にばくばくと大きな鼓動が伝わって来る。


「俺も、同じだから。」

「っ…ど、どうしたら、いい…?」

大和が近づいてきて、こつん。とおでこが当たった。
大和の目が、暗闇でもじっとこちらを見つめているのが分かる。眼鏡を取った顔をこんなに間近で見たのは初めてだ。

同じように、じっと見つめ返すと、さらに距離が縮まる。

キスの仕方なんて、知らないはずなのに。
大和が近づいてきたのを合図に、そうすることが当たり前のように、自然と目蓋が落ちた。
ふにっと柔らかい感触に、意図せずぴくりと身体が跳ねる。

「や、まと…。」

「朔…ん…柔らかい。」

恥ずかしくて、熱くて、何度も重なる唇に身体ごと全部溶けてしまいそうだった。

始めはそっと唇の一部をくっつけるだけだったのに、次第にしっかり重なり合い、とうとう呼吸まで飲み込まれそうになる。


それでも、飽きずに何度も互いの唇を食むように重ね合う。

抱きすくめられる力が強くなり、同じようにしがみつく力も強くなる。いつの間にか互いの足が絡まりあっていた。


「ぅ、ぁ…ん、やまと…。」

「っ、苦しい?」

「く、くるしい…けど、やじゃない…。」

「お前さん、それ、余所で絶対言うなよ。その顔も、誰にも見せないように。」

「ん、わかった…。」

「…お兄さん本当にとまらなくなりそうだから、そろそろ今日はここまでにして…寝るか。ほら、ちゃんと肩まで掛けろよ。ウチの大事な作曲家が風邪ひいたら困るから。」

「ふふ…そこ、恋人って言わないあたり優しい大和らしいね。」

「すみませんね。照れ隠しですよ照れ隠し。あ〜格好つかないと落ち込むわ…」

「気にしなくていいよ。どんな大和も好きだから。…おやすみ。」

「…朔、ありがとう。おやすみ。いい夢見ろよ。」

大和が声を掛けると、朔はそっと目を閉じた。

数分もしないうちに、朔は寝息を立てた。案外寝付きがいいのか、それとも、緊張して眠れていなかったのか。はたまた疲れが溜まっていたのか…どちらにせよ、自分の前で惜しげもなく無防備な姿を見せてくれることに、大和は内心舞い上がっていた。

目をつぶると、朔が意外と幼い顔をしていると知ったのは、以前酔って寝てしまったのを部屋まで運んだときだった。
もしかしたら…俺と同じくらいの歳なのかもしれない。

目の前であどけなく眠る朔の顔をまじまじと見ながら、大和もふぁ…とあくびが漏れる。


こいつ、今までどんだけ色んな人間に片思いさせて泣かせてきたんだろうか。

というか、優しいのは…というかカッコいいのはどっちだよと思いながら、朔の額にキスを一つ落とす。


「朔、好きだ。愛してるって言葉がこの世にあって、本当に良かった。」

ようやく思いを通じ合わせることの出来た恋人の体温を感じながら、大和はもう決して、朔を一人ぼっちにはしないと心に固く誓い、眠りに落ちていった。




世界中を歩いてきた旅人は、ようやく自分の居場所を見つけ、その晩は、今まで生きてきた中で一番熟睡できたのだった。



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