・No one…

□8 Remain
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後日、朔が話がしたいと言って全員をリビングに集めた。


「この間は情報が少なかったみたいで、ご迷惑をおかけしました。あの後大和と万理と千斗にはこってり絞られたよ。心配かけたこと、反省してます。」

「お兄さんこってり絞った覚えはないんだけどな…。」

「この間飲んだとき、べろべろになった君に二時間ほどこってり説教されたよ。おかげで流石に懲りたよ。」

「そりゃすんません。」

「いや、いいよ。内容は至って正論だったから。」

「ねぇ、朔はまたどこか行っちゃうの…?」


陸が心配そうに声を出すと、隣に座っていた一織が眉間に皺を寄せたまま立ち上がった。

「朔さん…お願いします。私たちに、IDOLiSH7に曲を書いてください。私たちは貴方の作る曲という翼で、もっと高く飛びたいんです。」

「Out.」

「えっ…」

「一織、もしNOneが有名じゃなかったら、曲は頼まない?NOneの曲だから高く遠く羽ばたける?」

「っ…そんなつもりじゃ、そんなつもりで言ったんじゃないんです。私は…私は、MEZZO"やRe:valeさんが羨ましかった。私だって、貴方の曲が歌いたい。私にだってきっと歌えます。でもそれ以上に彼らが歌う姿を見て7人で歌いたいと強く思ったんです。だからお願いです。曲を、IDOLiSH7に曲を書いてください。」

「俺も一織と同じ気持ちだよ。MEZZO"はいいなって、どこか思ってた。朔はさ、俺たちの曲を書くか…書けるか見極めたいって言ってたのに、朔は最初にRe:valeの曲を書いた。千さんとは昔からの知り合いだったとしても、たった一晩しか一緒にいなかったRe:valeの方が先に曲書いてもらえるなんて、何でだろうって思ってたよ。悔しかった。俺たちじゃ何がダメなんだろうって。でも朔はいつも俺達のことを知ろうとしてくれてたのもちゃんと知ってる。俺とご飯作ったり、大和さんと酒飲んだり、ナギとノースメイアの話をしたり、一織や環に英語教えたり、陸とテレビ見たり…いつも誰かの傍にいたよな。だから、俺たちの良さが分かったら、いつか絶対7人の曲を書いてほしい。」

「ありがとう、三月。一織も。二人にそう言ってもらえて嬉しいよ。」

「ねぇ朔、お願い!俺も朔の曲歌いたい!みんなに朔の曲を届けたい。俺たちを知らない人にも、朔のこと、まだ知らない人…は、いないかもだけど。知ってる人にも、いい曲でしょって、聞いてもらいたい。聞いて、元気になったり、また頑張ろうって思ってもらいたいんだ。」

「俺も皆と同意見だよ。リーダーとしても、そろそろお前さんの書く曲が欲しい。もちろんお前さんがアイドルの曲については専門外なのは重々承知している。だから今すぐ何とかしてくれとは言わない。それでも、朔の書いた曲を俺たちが歌える望みを表明して欲しい。」


朔は話を聞きながらも穏やかな笑みを浮かべると、首を何度も縦に振った。そしてホッとしたような顔で笑うと、短い笑い声を漏らした。

それを見た一織ははっとするなり、自分の席にすとんと腰を下ろした。


「そうか…やっと分かりました。あなたは気まぐれや気分で書かない体を装ってましたが、本当は私たちが貴方の曲を心から望むのを待っていたんですね。この人の曲はこんなにも素敵だから歌いたいと、私たちが望みやすいようにRe:valeの曲を作り、MEZZO"の曲を作った。私たちに必要だったのは与えられることを待つのではなく、こうして貴方に望むことだった。そうですよね。」

「一織は高校生なのに、本当に勘がいいね。そういうところ、本当に好感が持てるよ。まぁ、一織の推察は概ね当たっている。与えられた物は一方通行だ。望んで、望まれて、初めてそのものに価値が生まれて愛になる。少なくともそう考えているんだ。だからRe:valeもMEZZO"も実験ではないよ。彼らはきちんと、曲が欲しいと望んでくれた。言葉にして、態度に示してね。」

「あ、そういや俺ずっとサクっちに歌いたいから早く曲聞かしてって言った。あと、MEZZO"の話もした。そーちゃんと二人でも歌いたいから、曲書いてくれって。甘くて、きゅーってなるやつな、って頼んだわ。」

「そういえば僕も一度、資料を持って直談判したことがあったんだけど…そのとき、MEZZO"にも曲を書いて欲しいってお願いしたんだ。僕が書けるのはハードなロック調のものばかりだったから、デビューした時みたいな甘酸っぱい爽やかなハーモニーの曲が歌いたいって、お願いしたっけ。」


環と壮五が互いに目をあわせると、照れくさそうにしながらもにっこり笑った。


この二人は、本当に互いのことを思っているし、思い合っていた。


オーバーワークした甲斐があったと、朔は改めて幸せな気持ちになった。


「ナギ、君もわりと早い内から口説いてくれたね。7人のために曲を書いて欲しいって。ナギには曲だけでなく、存在も望まれて、嬉しかったよ。ナギはそういう意味では一番このグループのことを愛しているんだと思った。同時にその輪の中に受け入れたいと手を伸ばしてくれたことが、何より温かかった。」

「じゃ、じゃあ朔とナギがノースメイア語で話していたのって…。」

「ナギ、もう話してもいい?」

「OK.しかたありません。ここまできたらタネあかししましょう。」

「Thanks.ナギはね、仲間を代表してお願いしたいってずっと言ってくれていたんだ。何度もね。日本語で頼むと、もしかしたら同調圧力が生まれて寮内の空気が悪くなるかもしれないし、仲間がぴりぴりするのは嫌だって言ってきたんだ。何より作曲家に圧力を掛けたいわけじゃないからってこちらにも丁寧に接してくれたよ。ま、たまにノースメイアの本を借りたり雑談してることもあったけどね。彼の愛は本当に深いね。敬愛するよ。」

「ワタシは思ったことを伝えただけです。それに母国の言葉を話せる人は少ないです。ワタシも嬉しかった。懐かしい言葉は、私の心も潤して、穏やかな気持ちにさせてくれました。」

「ノースメイア語は美しい言語だと思うよ。これからもたまに内緒話をしよう。さて、本題に戻ろう。今回皆に心配を掛けた件だけど、今まで放置してきた日本での面倒事をすべて片付けようと思ったんだ。理由は、しばらく本腰入れてここにいようと思ったから。事務所とも正式に契約する。それにあたり昔住んでいた老紳士の家や土地の利権を売る準備をしたり、昔お世話になった弁護士を訪ねたり、役所に行って戸籍を取り寄せたりしてたんだ。…隠していたわけじゃないんだけど、結果的に騙していたみたいになってしまったね。ごめんね。」

「よかった…俺、朔がここにいるのが嫌になって、どこかに行っちゃうんじゃないかって思ったんだ…。よかった。どこにも行かなくて、よかったぁ。」

「陸、心配させてごめん。これから、皆の期待に応えられるような曲を書くよ。でもこちらも準備があるから、まずはソロ曲から。ゆくゆくは7人のための曲を書くから、しばらく時間が欲しい。お互いのためにも。」


そう告げた瞬間、7人は一斉に立ち上がってハイタッチをした。

その喜びようは、何かの大会で優勝したかのようだった。

大和が迎えに来てくれたあの日、殆ど朝方に帰宅したあの日が、決定的だった。

6人が重なり合って眠る姿を見て、彼らの曲を書こうと思った。グループは無理でも、ソロならすぐに用意が出来るだろう。

自然と浮かんだ考えそのものが、答えだった。

そして今、こうして7人が喜び合う姿を見て、その気持ちはより強固になった。

ここに残り曲を書くことで、こんなにも喜んでくれる彼らを、幸せにしたいと改めて思った。


曲を書いて、彼らが嬉しそうに歌う姿を、早くこの目で見たかった。





その日はそのままパーティー状態になった。



お開きになった後、なんとなく余韻を味わっていたくて一人台所に残っていると、大和がやってきた。


「それ、酒?」

「いや、水だよ。しばらくお酒は控えようかなと思ってね。これから忙しくなりそうだからさ。大和の晩酌の相手も、ほどほどにさせてもらうね。」

「そっか。作曲、身体壊すほど頑張らなくていいんだからな?」

「うん。そうだね。でも、みんながいるからきっともう大丈夫だ。」


大和は無言で頷くと、隣に立った。そしてグラスに水を汲むと、ごくごくと一息で飲んだ。


そういえば、大和は今日珍しくお酒を飲んでいなかった気がする。



「なぁ…お前さん、朔はさ、さっきみたいに言えば、基本受け入れるの?」

「さっきみたいに…欲しいとアプローチすればってことかな?まさか。でも…真剣には考えるよ。断られる怖さも知っているから。」

「ふうん……そっか。あのさ、俺、お前さんのこと…朔のこと、好きなんだ。」

じっ…と射貫くように向けられた視線が、痛いほど刺さる。真正面から受け止めてしまったせいだろうか。それでもなんだか逸らせずにいると、大和は視線を交わらせたまま言葉を重ねる。

「Likeじゃなくて、Loveな。好きだから、恋人になって欲しい。そういう気持ちなんだ。だから、今度のライブで俺の思いが伝わるよう、朔のことを思って全力で歌うから、ライブ終わったそん時に、俺のことどう思ってるか返事くれない?」


そういって大和は、一枚のチケットを差し出してきた。

分かった、とかろうじて声をだして受け取ると、大和は何事もなかったかのように、おやすみと言って自分の部屋へ戻っていった。




驚いた。



嬉しかった。




本腰入れて色々片付けてここにいようと思ったのは、大和の傍にいたかったからというのもある。


でも、あそこまではっきり言われたせいだろうか。自分の中で急に一斉に何かが芽吹いて咲き乱れるかのようにした気持ちは、じわじわと広がり留まりそうもない。


好きなのだ。


大和のことが、特別に好きなのだ。



ああ、もう。一体どうしてこうなったのだろう。


今夜、こうして大和が思いを伝えてくれていたことが夢だったとしたら、きっと立ち直れない。


今だにキッチンで呆然と立ち尽くしていたことにはっとすると、ひとまず足を剥がして自室へ向かう。


今はひとまず眠ることにしよう。


そして目が覚めた時、一番先に思い浮かべることはなんだろうか。



やっぱり、大和が好きだということだろうか。

それとも、大和が好きだと言ってくれたあの瞬間だろうか。


自分の部屋に戻り、ベッドに入る。

あの日、恥ずかしさから逃れるようにシャツを洗ったのに寝具はそのままにしていた。

もうきっと、大和の香りなんて残っていない。
それでも、彼の香りと、大和がここに来たのだという事実は消したくなかった。


見えない記憶をたどるように、彼の香りを思い出しながら眠りについた。


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