・縁 

□エピローグ また、春が来て
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「ふふっ、待て待て。髪に花びらが付いてしまっている。」

真斗は蒼生の髪の毛に舞い落ちる花びらを指でそっと摘まんだ。指先にのせると、花びらは再び風に乗って二人の元からふわりと飛んでいった。

無事に三日三晩蒼生のもとに通い、真斗は晴れて正式に蒼生の婚約者という立場となった。その後はアイドルの仕事をこなしつつも、藤崎の本家へ挨拶に行ったり、両家での誓約式に参加したりと日々が目まぐるしく過ぎていった。その一方で、蒼生がシャイニング事務所に所属するという形でなんとか社長に交際と婚約を認めてもらうこととなった。

婚約したが、正式に結婚するまで部屋は別々としなければならないため、主に真斗が蒼生の部屋に通う形となっていた。しかしそんな忙しい日々のせいもあって、二人きりでゆっくり過ごすことは決して多くなかった。それでも真斗は欠かさず蒼生に歌を詠み、季節の花を贈っていた。そうしていくうちに季節は巡り、春になった。




「で、聖川さんは藤崎の家の決まりに従っていたため、今日まで私たちへ婚約の報告ができなかったと…。」

「あぁ、面目ない…メンバーに隠し事をするなど心苦しい限りだったが、今日こうしてようやく話が出来て久しぶりに息ができたような気がする。方々に報告や挨拶をしていたのもあってな、話がまとまり正式に婚約となるまで随分と時間が掛かってしまったのだ。出来れば皆に一番に報告したかったんだが、遅くなって本当にすまなかった。」

真斗が深々と頭をさげると、横に並んでいた蒼生も同じように皆に頭を下げた。

「皆様には本当に、色々とご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。」

「睡蓮もマサトもわるくありません。ワタシは二人が幸せになってくれてウレシイです。」

「ほんとだよな。しっかし聖川が婚約かー。よくあの社長が許したな!」

「あぁ、色々条件はついたがなんとか認めて頂けた。」

「本当にやってくれるよね聖川は。奥手なフリして世の男がみんな欲しがる女性に、こんなにも情熱的に迫っていたとはね。やれやれ。」

「そうですね、今回ばかりは私もレンの意見に同意します。」

あはは…とその場に大きく響き渡る声で笑うと、真斗も蒼生も照れくさそうにしながらも一緒になって笑った。

この二人は、みんなが事の成り行きをとうに知っていたなど露にも思っていないのだろう。レンとトキヤ、そして翔と那月、セシルはそっと瞳を合わせるとにっこりと笑った。

「すまない…おそくなった。」

聞き慣れない声のする方を向けば、そこには綺羅が大きな箱を抱えて立っていた。
蒼生が咄嗟に扇と袖で顔を隠すと、綺羅は真斗と蒼生の前に膝を突いて頭を垂れた。

「今日は…この場に招いてくれたこと…感謝する。婚約祝いだ…受け取って欲しい。俺が…長い間開けなかった…彼女の心を開いたんだ…惨敗だ。だが…姫君、今後は…友人として共に友好関係を築けないだろうか。」

「…考えておきますわ。」

「あぁ、もちろん婚約者殿のことが嫌になったら…いつでもその沙汰をくれたらいい。」

「なっ…!」

真斗が絶句するのを遮るように、蒼生は扇からほんの少しばかり目を出すと、綺羅にゆっくりと、しかしはっきりとした声で語りかけた。

「そのようなことは天変地異が起きてもございませんことよ。『過ちては改むるに憚ること勿れ』という言葉をご存知で?」

「すまない…姫君は俺が思っていたよりも…ずっと強からしい。失礼を申し上げました。姫君…どうか…末永くお幸せに。」

綺羅が深々とお辞儀をすると、その後ろからは瑛一を先頭としてHE★VENSがやってきていた。

「やっほ〜宇宙一キュートなナギが来たよ〜!」

「みんな久しぶりやなぁ!今日は姫さんの顔が拝めるんやろ?ワイ朝から楽しみで楽しみでおちつかんかったわ〜!」

「星々が再び集いしこの場で、喜びによって煌めきが一層増している。天草の心も、煌めきにより天に高まるいきおいである。」

「俺たちまで…よかったのかな。なんか、緊張するね。」

「おっ!美味そうな物が山のようにあるじゃねぇか。」

「久しぶりだな、ST☆RISH。姫君、本日はお招きに預かり光栄です。どうか我々HE★VENS一同にお目通りを。」

瑛一が声を掛けると、綺羅を含めHE★VENSは一列に並ぶと、綺麗に跪き深々と頭を垂れた。その一糸乱れぬ綺麗な所作にST☆RISHが目を奪われていると、藍が声を掛ける。

「ちゃんと練習してきたんだね。合格だよ。睡蓮、お客様にご挨拶を。」

「皆様ごきげんよう。面をお上げになって。本日はお忙しい時にご足労賜りまして、誠に恐れ入ります。皆様のご活躍につきましては、今後一層の繁栄をお祈り申し上げます。さ、面をお上げになって。」

二度目の声かけに全員ほんの少しだけ顔を上げるも、だれも蒼生を直視しようとしない。その様子をST☆RISHは固唾を飲んで見つめていた。

「家は藤崎。号は睡蓮でございます。まだ成婚前ですので、藤崎の名を名乗ることをどうかお許しくださいまし。」

「ご婚約、誠におめでとうございます。また本日は我々HE★VENS一同、ST☆RISHの友人としてお祝いの席にお招き賜り、恐悦至極に存じます。HE★VENS鳳瑛一が代表し、感謝と祝辞を述べさせていただきます。」

「御心遣い、まことにありがたく存じます。今後とも、真斗共々宜しくお願い申し上げます。…藍、もういい?」

「笑っちゃ駄目だよ睡蓮。みんな真剣にやってるんだから。…ま、もう必要な儀式はすんだし、いいんじゃない?いい?全員この場の写真を撮るのは絶対ダメだからね。電源は必ず切ること。一応信用してスマホは没収しないけど、見つけたら…」

「藍、お小言はそのへんにして頂戴な。皆様その体勢はお辛いでしょう?どうかお顔をお上げくださいまし。」

三度目の声かけにして、HE★VENSはようやく顔を上げたものの、それでも誰も蒼生直視しようとする者はいなかった。

「藍、今日は皆様にわざわざ来て頂いているのですから、このように堅苦しいのを強要するのは失礼だわ。室内ならともかく、屋外でこの体勢は首が痛くなってしまうでしょう?」

「そうはいっても決まりだからね。それになるべく正式な対面をしたいって言い出したのは彼らだよ。」

藍が不満そうな目を蒼生に向けるのを制するように、瑛一が折っていた足を伸ばし立ち上がると、それを合図に全員がその場に立ち上がった。

「姫君、俺たちは別に強いられてしたわけじゃない。自らの意志により、なるべく正式な対面をと望んだのだ。さて、姫君のご厚意だ。ご尊顔を拝謁しようではないか。さぁ、そのお顔を見せてくれ。」

「…なんだか変わった方々ね。」

蒼生は素直に扇を閉じると、若干決まり悪そうにしながらも顔を見せた。視線が刺さるようにこちらを向いていることにいたたまれなくなった時、静寂を破るように大きな声が響いた。

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