・縁 

□21 覚悟
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真斗が目を覚ますと、隣は空だった。

蒼生はどこへ…と思い掛け布団をめくると、そこには、はっきりと色の濃い染みが点々と散らばっていた。

それはまるで、ほんの少し前の出来事が夢ではなかったことを物語っているようだった。



真斗は気を取り直すと、床に落ちていた浴衣を拾って袖を通す。


蒼生は窓の外を見ていた。その視線の先をたどると、雪が舞っているのが見えた。


真斗は自分と同じように薄手の浴衣を一枚羽織っただけの蒼生を、後ろからそっと抱きしめた。蒼生の肩はひんやりとしていた。



「こんな薄着では風邪をひいてしまう。」

「ごめんなさい。つい、美しくて。」

「そうだな……眠れぬか。」

「少し…」

「すまない、優しくしたつもりだったんだが、負担をかけすぎてしまっていたようだな。」

「いいえ、そんな。真斗こそ、お仕事をした後だというのに…もう少しお休みになって?」

「ああ。お前が隣に来てくれるのならな。」

「まぁ。」

浴衣の袖で口元を隠しながらも、蒼生はくすくすと笑った。

「む…なにかおかしかっただろうか?」

「いいえ。愛されているなと、求められることが嬉しくて…つい笑みが浮かんでしまいましたの。」

「そうか…。ベッドに戻ろう。ここでは本当に風邪を引いてしまう。」

真斗は蒼生をそっと横抱きにすると、再び天蓋をかき分けベッドに蒼生を横たえた。自分も横になると、蒼生の頭の下に腕を差し入れ、自分の胸元へ抱き寄せた。

「やはり身体が冷えてしまっているな。大丈夫か。」

「ええ。ごめんなさい。ん…待って、くっついていたら真斗が冷えてしまいます。」

「案ずるな。こうして二人で毛布を掛けてしまえば、二人ともすぐに温かくなれる。」

そういって足先まで絡ませるように寄り添うと、蒼生も素直にされるがままになった。その素直な反応を嬉しく思うと同時に、真斗はこんなにも愛しい相手を、これから先も苦しめるかもしれないと思うと、胸が張り裂けそうだった。

「すまない…俺はこれからもアイドルを続けたい。」

「ええ…分かっていますわ。その話は、何度もしたではありませんか。」

「ああ…それでもこうして直接話したかった。愛と夢を与える仕事を、俺はしたい。仲間たちと共に、音楽を奏で歌いたい。」

「ええ。私も…貴方が夢を追いかけて行く姿も含め、好きです。」

「 許してくれるか。」

「もちろんだわ。」

「ありがとう。」

「まさと…たくさん苦しめて、悩ませて…本当にごめんなさい。」

「いいんだ。仲間たちもきっと、話せば分かってくれる。いや…分かってもらえるまで、俺は誠心誠意心をを尽くそうと思う。どちらも手にしようなど、愚かだということは分かっている。それでも…手を伸ばさずにはいられなかったのだ。どちらかを選び、どちらかを手放すことなど…俺にはできぬ。」

「 私も同じです。家の事情に真斗を巻き込んででも…あなたのことが恋しいと…思うようになってしまいました。それに、私はこれからも大学に残って研究をつづけますから…貴方を支える模範的な奥様には、なれないかもしれません。」

「そこはお互い様だ。せっかく叶えたいことがあるのなら尽力すべきだろう。今でなければできぬこともあるだろうしな。互いに支え合い、同じ時を紡いでいこう。俺たちは、俺たちなりのやり方でやっていけばいい。俺たちらしくあろう。」

「私たち、らしく…。」

「ああ、俺たちらしく、二人なりに精進しよう。」

「はい。」

「蒼生…眠れそうか?」

「ええ…温かくて…」

真斗が視線を向けると、蒼生はとろんとした瞳を一生懸命開けようとしていた。

「寝てよいのだぞ。」

「私が、先に寝るなんて…」

「俺たちらしく、だ。案ずるな。寧ろ俺は…明日もお前をこうして夜半まで起こしているのかと思うと…その…。」

「大丈夫です。その…貴方に抱いていただけない方が悲しいです。」

「そっ…そのように直接的な表現をしなくとも…!」

「はしたないですか?」

「…っ、俺の前以外では、是非とも慎んでくれ。」

「はい。」



いつの間にか、二人はそのまま眠りについていた。

朝日が昇る前、扉の前の朱音が起こしに来るまで、二人はぴたりと寄り添ったまま、夜を過ごした。


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